こんにちは、管理人のアカツキです。今回取り上げる防災お役立ち情報は「長周期地震動階級」です。
去る2023年(令和5年)5月、石川県の能登地方で最大震度6強の大きな地震が発生しました。そしてこの地震では長周期地震動に関する観測情報も発表されました。能登地方で長周期地震動階級3が観測されたという情報です。
この長周期地震動、そして長周期地震動階級というワードの登場に、これは何だろう?と思われた方も少なくないのではないかと思います。通常の震度速報に加えていきなり長周期地震動というテロップが表示されたのですから無理もないかも知れません。
その字体から長周期地震動というものに対する階級であることが分かりますから、その度合いを示しているのだとは推測できます。では通常の地震速報で使われている震度と、長周期地震動階級の違いは何なのでしょうか。そして地震ではなく地震動となっているのはどうしてなのでしょうか。
実は長周期地震動階級とは、気象庁が制定した全く新しい地震の指標なんです。
今回の記事では「長周期地震動階級」について、ぜひ知っておきたいことを二回に渡り、お伝えしたいと思います。
(2023.10.5(木)追記 後編を投稿しました)
緊急地震速報に長周期地震動が追加
長周期地震動、そして長周期地震動階級の詳しい意味は後から見ていきますので、まずは能登地方で発生した地震について改めて確認していきます。
- 地震発生時刻 2023年(令和5年)5月5日 14時42分
- マグニチュード 6.5
- 震源と深さ 石川県能登地方、12km
- 最大震度 6強(石川県珠洲(すず)市)
(出展 気象庁「令和5年5月5日14時42分頃の石川県能登地方の地震について」)
こちらが各地の震度情報です。
各地の震度情報
(出展 気象庁「令和5年5月5日14時42分頃の石川県能登地方の地震について」*PDFファイルです
震源である能登地方を中心に大きな震度になっていることが確認できます。一方で長周期地震動についてその情報も見てみます。こちらは気象庁が提供している長周期地震動の観測結果です。
長周期地震動の観測結果
(出展 気象庁「長周期地震動の観測結果」)
こちらも震度と似たような分布になっていますね。能登地方の色が朱色になっており、その大きさ(階級)が3になっています。そしてその隣、あるいは少し離れた県で青色の階級1を観測しています。
また図では朱色で塗りつぶされていますが、右の表にある通り、能登半島の輪島市鳳至町(ふげしまち)にある観測点では階級2を観測しています。
これから長周期地震動と呼ばれるものは、ある程度震度の大きさと関係がありそうだ、というのが言えるかと思います。
そして今年2023年(令和5年)2月1日から、気象庁において緊急地震速報の発表基準に長周期地震動が追加されました。つまり地震に関する新たな情報が追加されたのです。
緊急地震速報の発表基準の追加に関するプレスリリース(その1・概要)
(出展 気象庁「長周期地震動に対応した防災情報の強化について」)
緊急地震速報の発表基準の追加に関するプレスリリース(その2・追加内容)
(出展 気象庁「長周期地震動に対応した防災情報の強化について」*PDFファイルです)
つまり2月1日より前の緊急地震速報においては、震度5弱以上を予想した場合に発表されるようになっていましたが、現在では発生した地震によって震度5弱以上が予想されなくても長周期地震動階級3以上が予想されれば緊急地震速報が発表されるようになった、ということです。それが上の画像の部分にあった「または」の意味です。
こちらも後に述べますが、では長周期地震動に関して緊急地震速報が発表された場合、私たちはどのような行動を取れば良いのか?ということですが、これは震度に関する緊急地震速報が発表された場合と違いはありません。身を守る行動を地震がやってくる限られた時間内で行うことが重要です。
地震動は様々な周期の地震波の集まり
それでは長周期地震動についてその意味を見ていくことにしましょう。しかしこの用語の中には地震動という用語も入っており、では地震動とは何か?そして地震とは何か?と際限なく用語の意味を問い詰めてしまいそうになります。
長周期地震動を考えるにあたり、用語の理解をすることは大切なことです。そこで少し整理をしてみましょう。
まずは地震と地震動です。一言で言えば
- 地震 ・・・地球を構成するプレート(岩盤)がずれ動くこと
- 地震動・・・地震によって引き起こされた揺れの現象
となるでしょう。ただ実際の運用的には地震動ではなく、地震という用語が地震動の意味を含むような使い方がされているかと思います。ですが地震が起こることで地震動(揺れ)が生じるという因果関係は押さえておきたいところです。
そしてその地震動は揺れですから地面を伝わっていきます。それが私たちの足下にやって来た時、地面が揺れるということです。
この揺れ方には色々なものがあり、ガタガタガタと小刻みに揺れたりすることもあれば、まるで船に乗っているかのようにゆったりと、だけど大きな揺れを感じることもあるでしょう。この振る舞いは、物理的には波動、つまり波という現象として捉えられます。
波というと海で見るように海面の一部が盛り上がり、それが岸に押し寄せてくることですが、波動という現象でもあります。
ところで海辺で波をよく観察すると、盛り上がった部分は手前から水平線の彼方までずっと一様にぐぐっと持ち上がるのではなく(津波は例外ですが)、一部だけが上がってやってきますよね?
次にその波のある一点に注目すると、その盛り上がった凸部分がやってきて手前まで進み、やがて波が砕けてその波は消滅します。
一方でその前後において波のそばにある目立つもの(たとえば羽を休めてたゆたう海鳥など)の移動を見ますと、高さ方向の変動はありますがそれも波が過ぎれば元の位置に戻り、水平方向については手前にも奥にも大きく動いていない、ということに気付かれるかと思います。
なんとなくですが、イメージとしては波に乗るとそのまま運ばれて移動できるという感じがしませんか?でも実際にはそうではないんですね。となると波というのは、一体何なのでしょうか。海面を凸部分が移動していますから確かに何かが移動しているのは間違いありません。でもその場にあるものが動ていないということは、海水はその何かを伝えているだけ、というように見ることができます。その何かとは、力(エネルギー)になります。
つまり、波というものは発生した力を伝える仕組み、ということになります。さらに波には凸な部分と凹な部分が交互に、そして繰り返しやってくる性質があります。この間隔(時間)が周期と呼ばれるものです。
また波は一つの周期の波からなることもありますが、基本的には色々な周期を持った波が集まって大きく一つの波を構成しています。そのような性質が波にはあります。
地震によってプレートが揺れ動き大きな力が働くと、その力は地面が伝令役となって伝わっていきます。この仕組みが波なのですから、地震の結果起こる揺れ、すなわち地震動も波ということになります。
そうなると地震動には色々な周期が混ざっているはずです。ガタガタガタとする揺れは凸な部分が短い時間に多くやってくるのでそのように感じるということです。つまり周期が短い(短周期)、ということになります。
そしてゆらりゆらりとした揺れはその逆で、周期が長い(長周期)のではないかと考えられます。この周期が長い地震動こそが長周期地震動ということになります。
長周期地震動による被害例
では一般的に震度階級で表現されるような(短周期)地震動による被害に対して、長周期地震動ではどのような被害が想定されるのでしょうか?ここではその事例を二つ見ていくことにしましょう。
(1) スロッシングによる石油タンクの火災(2003年十勝沖地震)
震源から遠く離れた場所で火災発生
まずはこちらの事例からです。今から20年前の2003年(平成15年)9月26日に発生した十勝沖地震によるものです。
- 地震発生時刻 2003年(平成15年)9月26日 4時50分
- マグニチュード 8.0
- 震源と深さ 北海道釧路沖、45km
- 最大震度 6弱(すべて北海道)
新冠町、静内町、浦河町、鹿追町、幕別町、豊頃町、忠類村、釧路町、厚岸町
(出展 内閣府 防災情報のページ 災害状況一覧「平成15年(2003年)十勝沖地震について(第33報)(平成16年4月1日現在)」*PDFファイルです)
十勝沖地震の震度・出展 気象庁「震度データベース検索」
最大震度6弱を観測したこの地震では、火災が4件報告されています。そのうち、2件は北海道苫小牧(とまこまい)市にある2基の石油タンクから火が出たことによるものでした。
1基は原油タンクで地震直後に火災が発生し、もう1基はナフサタンクで地震から二日経った後に出火という事態になり、さらにその消火に二日を費やすこととなりました。
緊急地震速報タンク火災の様子(出展・文献1)
- タンク概要(写真1)
- タンク形式 FRT(後述します)
- 油の種類 原油
- 容量 約33,000キロリットル(地震時約30,000キロリットル貯蔵)
- タンク直径 42.7m
- タンク高さ 24.4m
- 固有周期 7.0秒
- タンク概要(写真2)
- タンク形式 FRT
- 油の種類 ナフサ
- 容量 約33,000キロリットル(地震時約26,000キロリットル貯蔵)
- タンク直径 42.7m
- タンク高さ 24.4m
- 固有周期 7.1秒
(出展・文献1、2)
ではなぜ石油タンクから火災が発生したのか?ということですが、スロッシング現象によって浮き屋根(後述します)が揺り動き、タンク設備に当たって火花が発生し、それが原油に引火したのではないかと考えられています。
ここでスロッシングという用語が出てきましたが、これは揺動(ようどう、揺れ動くこと)とも呼ばれ、長周期地震動による波がタンクに貯留されていた原油をゆらゆらと動かすことを指します。この時、地震波の周期がタンクの固有周期(その構造物が揺れるときの周期で、それぞれに特有の値があり、それを固有周期と言います)に一致すると共振という効果によってより一層大きく揺れることになります。
この共振現象は身近な所でも実感できるかと思います。例えばコップに注いだ水を手でゆらゆらと動かしたことはないでしょうか?この時、コップをある速さで動かすと水が大きく波打ち、ついにはコップを乗り越えてテーブルにびしゃっ、とこぼれ落ちることがありますよね?あれが共振です。共振現象の例として以下の鍋を使ったものがありますが、どこかでご覧になったことがあるかと思います。
そのコップゆらゆらを巨大なスケールにしたのが今回の石油タンクにおけるスロッシング現象と言えるでしょう。
また、一口に石油タンクといってもその構造には様々あり、本件のタンクはシングルデッキ浮き屋根式タンク(FRT、Floating Roof Tank)と呼ばれるもので、ざっくり言うと貯めた油の上に大きな金属板(浮き屋根)を乗せた構造になっています。
シングルデッキ浮き屋根式タンクの構造(出展・文献4)
先のタンク情報にもありますように、火災を起こしたタンクは非常に大きな径を持ちますから、タンクの蓋、つまり屋根を作ろうとするとその自重で屋根を支えるのが難しくなります。また油にはどんどん揮発していくものもありますから屋根を作ったとしても油の量が減っていっては困ります。
そこでFRTであれば、油の上に板を乗せることで揮発を抑えることができますし、大規模に備蓄したい用途に適当です。ということは、液面がスロッシングで揺れた場合、浮き屋根も一緒に揺れるということです。それが冒頭に述べた火災に繋がったと考えられています。
またこの地震被害では、火災になった石油タンクが大きく取り上げられていますが、スロッシングによるタンクの被害は釧路市、苫小牧市、石狩市と広範囲に及んでいました。また釧路市は近いですが苫小牧市や石狩市は震源地から200km以上も離れています。にも関わらずこのような被害が発生したことから、長周期地震動は遠くまで伝わって被害をもたらすのではないか?と考えられます。
苫小牧市には大規模な石油備蓄基地があって1000キロリットル以上を備蓄するタンクが多数設置されていますが、軽微なものも含めると170基と全体の58%に何らかの損傷が確認されておりその被害規模も決して小さいものではなかったことに留意してください。
(2) 高層ビル内におけるエレベータ停止・閉じ込めや内装材等の損傷(2011年東北地方太平洋沖地震)
先ほど、長周期地震動は遠くに伝わりやすい性質があり、またその地震動の固有周期と構造物の固有周期が一致すると、共振によってより大きな揺れが起こることが示されました。
(2)の事例では、その構造物が高層ビルだった場合について見ていきます。
高層ビルでは大きな揺れが発生
2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、あらゆる面において想定を超える被害が生じましたが、長周期地震動によるものと思われる被害も発生しています。
大阪府では、高さ256mの高層建築物である咲洲庁舎(さきしまコスモタワー、かつては大阪ワールドトレーディングセンタービル、WTCと呼ばれていました)において以下のような被害が発生しました。
咲州庁舎の被害状況
出展 大阪府「咲洲庁舎の安全性等についての検証結果(平成23年5月) 本編 3ページ」*PDFファイルです
表のように、防火戸のゆがみなどといった損傷が合計で360か所に上り、エレベータの停止や閉じ込めも発生しました。
また東京においても多くの高層ビルで被害が確認されています。2011年から2012年にかけて気象庁が開催した「長周期地震動に関する情報のあり方検討会」の報告書には、都内34棟の高層ビルについて行った被害の聞き取り調査の結果が示されています。
都内高層ビルにおける被害聞き取り調査結果
出展 気象庁「長周期地震動に関する情報のあり方検討会」
長周期地震動に関する情報のあり方報告書(本文) 12ページ *PDFファイルです
図のように、多くのビルで天井のズレや内装材(特に非常階段)にひび割れが生じたといった軽微な損傷が見られたということです。
またオフィスビルですから什器(じゅうき、業務に使用する機材全般)も揺れによって転倒したり移動することが想定され、実際これらの被害についても報告されていますが、その割合はあまり大きくはありません。調査結果によれば、これら什器の転倒やコピー機の移動といった被害は、すべて固定対策をしていないもので発生したということです。
一方で本検討会の資料には、被害画像もいくつか掲載されています。
長周期地震動による高層ビルの被害
出展 気象庁「長周期地震動に関する情報のあり方検討会(第3回)」
資料1:高層ビル等の揺れ等の実態調査結果を踏まえた長周期地震動に関する情報の対象及びニーズの把握について 5ページ *PDFファイルです
これはビルの高さによる什器類や背の低い物の動きを比較したものですが、キャビネットや本棚と思われる背の高い什器が大崩れになっています。どれもかなりの重量物に見え、当時の現場に自分がいたとすればこの光景にかなりの恐怖を感じたと思います。
都内では震度5弱~5強の揺れが観測されていましたが、感じ方として、確かに震度は大きいけれども、ちょっとこの倒れ方は本当に震度5クラスの揺れなのか?といった考えも出てくるのではないかと思います。
そうなると石油タンクの時と同様に、高層ビルにおいても長周期地震動による周期が建物の固有周期と一致し、共振現象によってより大きな揺れが発生したと捉えるべきでしょう。
この点において、通常の地震動あるいは長周期地震動による建物の揺れ方には差が出てくることが見えてきます。
長周期地震動の被害は震度で表現できる?
では通常の地震動と長周期地震動との本質的な違いはどういうところにあるのでしょうか。次にそれを追っていくことにしましょう。少し内容が難しくなるかも知れませんが、じっくりと腰を据えてお読みください。まずはこちらからです。
二つの地震波形とフーリエスペクトル
出展 気象庁「長周期地震動に関する情報のあり方検討会」
長周期地震動に関する情報のあり方報告書(本文) 3ページ *PDFファイルです
この図は、先ほどの検討会の報告書にあったものです。いずれも震度3を記録した地震の実際の波形になります。ここから震度と長周期地震動の違いを見出していきます。
まず押さえておくところとして、(A)と(B)の地震はそれぞれ別の時間と場所で発生したものということです。特に右側の(B)は大阪市此花区で観測された東北地方太平洋沖地震のデータで観測点は夢洲(ゆめしま)ですから、先に取り上げた咲洲庁舎のある住之江区咲洲と舞洲(まいしま)を挟んで隣り合っている位置関係になります。
加速度波形の違いは?
では上の加速度波形から見ていくことにしましょう。このグラフの横軸はsになっていますね。sとは秒(second)のことで、つまり時間(秒)を横軸にしているということです。
そして縦軸は加速度になっています。加速度とは高校物理で多くの人を悩ませたものかと思いますが、あるスピードで動いているものがある決まった時間間隔(たとえば1秒=1s)でどれくらい勢いがつくか、つまり加速するのか?という度合いを示した指標です。ですので加速される度合いが大きければそれだけ物体は速く動きます。
ということはこの数字が大きければ(波形の振れが大きければ)それだけ地面から大きく揺れる力が伝わるとも言えます(一般的な傾向としてです。実際には建物の構造や地盤が揺れやすいのかそうでないのかといったことも関係します)。加速度の単位はcm/s2で、時折ガルとも呼ばれます。
また波形は各地震について三つ測定されています。NS、EW、UDとありますが、地震計でそれぞれ北と南側(NorthとSouth)、東側と西側(EastとWest)、上と下(UpとDown)方向(成分)に分けて振動を計測しています。
まずこれらの波形を見て気付くのは、AとBで揺れが続いている時間がどうも違うらしいということです。ものすごくざっくりですが、Aでは長くても30秒くらいの大きめの揺れがあり、その後一気に揺れが小さくなっているように見えます。言ってみればギュッと締まった揺れとでも表現するのでしょうか。
対してBではAよりは大きくないですが、それでも大き目の加速度が200秒、つまり3分以上は継続しているように見えます。そしてその揺れはいずれも震度3とされています。
フーリエスペクトルの違いは?
次に下の波形を見てみましょう。これは上の波形を三つ合わせたものをフーリエ変換したグラフ、つまりフーリエスペクトルです。いきなり良く分からない専門用語が出てきましたが、これは波を分析するための手法として広く使われているやり方です。
何をしているのかというと、波を周期ごとに分けています。先ほど地震動は様々な周期の波が混ざっていると述べましたが、フーリエ変換を行うことで上の波形にはどのような周期の波がどのくらいの強さで含まれているのか?ということが分かります。
周期は秒でしたから横軸はsになっており、縦軸はその強さの度合い(AMP、振幅のAmplitudeの略と思われます)で単位はcm/sと速度のそれになっています。
また、横軸について少し補足ですが、いずれも1.0s、つまり1秒の所にグリッド線が入っています。これによって横軸の数値が少し読み取りやすくなっているとともに目盛りの取り方がちょっと普通のグラフとは違うということが見えてきます(一瞬1.0sで急に160cm/sの値が出ているように見えますが、ただの区切り線ということに注意です)。
横軸にある値は0.1秒と1秒と10秒になっていますよね?それ自体は良いのですが、どうもこれらは同じ間隔で並んでいるように見えます。ならば右端は1.9sくらいになっていないと辻褄が合わない気がしませんか?
そこでこのグラフは横軸の取り方が少し特殊だということになります。実際にこの目盛りは同じ間隔で10倍ずつ値が増えていくような取り方になっています。ちょっと混乱しそうになりますが、こうすると小さな値から大きな値による変化を一枚のグラフで見ることができるようになります。
このような目盛りの取り方を対数目盛と呼び、またこのグラフは縦軸と横軸のうち片方だけが対数目盛なので片対数グラフとも呼ばれます。
そしてこれらのグラフでは、AとBで非常に大きな違いが出ています。Aはどの周期帯にもその成分が入っているように見えます。またBと比べて1秒以下の成分がより多く現れています。一方Bについては逆に1秒以上、特に8秒くらいの周期の波の成分が際立っています。
報告書によれば、観測点A、B近くにあるビルの所有者に聞き取り調査を行ったとあり、Aの近くのビル約20棟では数分程度エレベータが停止したものの、目立った被害は確認されなかったとの記載があります。
しかし、B近くにある55階建ての高層ビルでは大きな揺れとなってエレベータのロープ類の損傷や内装材等の被害が発生したとのことです。このビルは咲洲庁舎のことでしたね。
以上のことから、同じ震度3の揺れでありながら、その地震動に含まれる波を調べてみると地震動を構成する波の周期に大きな違いがあることがわかりました。加えて観測点近くのビルが受けた被害の程度にも大きな差がありました。そしてより大きな被害を受けたのは、より長い周期の地震波成分が目立つB観測点に近い高層ビルでした。
つまり、震度では判別できない被害が発生したということになります。
石油タンクや高層ビルの例を振り返りますと、地震動の長周期成分と建物の固有周期が近くなって共振を起こし、通常の地震動によるものとは異なる大きな揺れが発生していました。
ということは、震度とは別に、長い周期の地震動である長周期地震動にも着目して総合的に地震による被害を考えていく必要が出てきたことになります。
長周期地震動の特徴とは?
ここまで、地震とそれが起こす揺れである地震動について
- 地震動の意味
- 地震動は一つだけの周期を持った波ではなく、様々な周期の波が重なっている
- その中の長周期成分が主体の地震動は、通常の地震動と比べて・・・
- 揺れの性質が異なる
- 及ぼす被害の内容に違いが見られる
ことが見えてきました。被害事例からはその違いとなる要素がいくつか抽出できるかと思います。そこで長周期地震動の特徴について一度まとめてみます。
まず被害事例で取り上げた地震の規模について見直してみますと、(1)の十勝沖地震はマグニチュードが8.0であり、(2)については同9.0といずれも巨大地震と呼べるものになっています。ここから発生する地震の規模が大きい、つまりマグニチュードが大きいほど地震動の長周期成分も大きくなると考えるのが自然かと思われます。
また(1)の石油タンクの際立った被害や(2)の被害はいずれも震源から数百km離れた場所で発生しています。そのため、震源から遠く離れた場所においても長周期地震動はそこまで衰えることなく伝わっていくのではないかと考えられます。
果たして気象庁による長周期地震動の特徴を表した資料には次のように記されています。
長周期地震動の特徴とは
出展 気象庁「緊急地震速報の発表基準の変更について」
緊急地震速報の発表基準に長周期地震動階級を追加することに関する「説明資料」 5ページ *PDFファイルです
①地震の規模、②地震波の伝播、③場所の三つに関して長周期地震動の特徴が整理されていますね。
ちなみに③の場所に関する特徴ですが、長周期地震動は揺れが伝わる地盤の地下構造の影響を受けるということを示しています。このことは石油タンクのスロッシング事例(1)で参考にさせてもらった文献にも記述があります。
苫小牧一帯は勇払(ゆうふつ)平野と呼ばれる平野帯になっています。地下には火山灰や砂、泥といった様々な堆積物からなる堆積層があるとされており、それが長周期地震動を増幅させる作用があることは、関東平野、大阪平野などでも研究され明らかにされているとのことです。
この三点の特徴は、長周期地震動と通常の地震動とを区別する重要なポイントだと思います。ぜひこの部分を押さえておきましょう。再掲します。
長周期地震動の特徴
- 規模の大きな地震で発生する
- 遠くまで伝わりやすい
- 堆積層の厚い平野で増幅される
新たな地震動の評価指標-長周期地震動階級-
階級は1から4まで
長周期地震動には通常の地震動とは別にする特徴があり、それによる被害の内容も私たちが通常の地震動でイメージするものとは異なっていることが分かってきました。
となると、長周期地震動の大きさや被害の評価を震度で行うことが適切かどうか?ということに論点は変わってきます。
そこで長周期地震動の大きさを階級で区分し、人の体感や室内の状況に関連付ける取り組みが行われました。そうして決められたのが長周期地震動階級です。以下が気象庁の検討会で新たに作成された長周期地震動階級の一覧表(解説表)です。
長周期地震動階級の一覧表(解説表)
出展 気象庁「緊急地震速報の発表基準の変更について」
緊急地震速報の発表基準に長周期地震動階級を追加することに関する「説明資料」 15ページ *PDFファイルです
合わせて震度階級についても確認しておきましょう。
震度階級の一覧表(解説表)
出展 気象庁 パンフレット「地震と津波」 16ページ
長周期地震動階級は、震度階級よりもその階級数は小さく、1~4まで設定されています。また、先ほどの事例からも長周期地震動は高層ビルなどに対してその影響が大きくなっています。そのため、対象はおおむね45m以上(14、15階建以上)の高層ビルになっています。
そして長周期地震動の周期はどれくらいを想定しているのか?ということですが、1.5秒から8秒の間となっています。これは国内の最も高いビルでもその固有周期が約6秒であることも考慮して周期帯が決められています。
構造物の固有周期
出展 気象庁「緊急地震速報の発表基準の変更について」
緊急地震速報の発表基準に長周期地震動階級を追加することに関する「説明資料」 10ページ *PDFファイルです
家具固定をしっかりと
長周期地震動について、その特徴や階級を見てきました。では長周期地震動に対して私たちはどのような対策を取っていけば良いのでしょうか。
基本的には先に触れた通り、身を守る行動を取ることが大事です。参考として、気象庁では長周期地震動階級について説明ビデオを作成しています。
こちらにもありますが、地震時は家具類や照明機器などが「落ちてこない」「倒れてこない」「移動してこない」空間に身を寄せることが大事になるはずです。
そして家具類がそのようにならない、あるいはその確率を減らすためにも家具類の固定対策が非常に重要になってくるでしょう。東京消防庁では家具転対策と銘打ち、特集ページを設けており、非常に充実した内容になっております。ぜひご確認を。
また当サイトでも過去に解説記事を掲載しています。
まとめです
今回の防災お役立ち情報は「長周期地震動階級」について、地震動という基本的なところの確認からはじめ、長周期地震動というものがあることを述べ、その特徴を踏まえながら見てきました。前半となる今回において、肝心なポイントは押さえられたかなと思います。
長周期地震動階級という4つの階級は、今回の能登の地震で急に出てきたように見えますが、その背景には実に8年という長い時間をかけた議論がありました。後半ではその背景を追って行きたいと思います。
(記事中の文献です。非常に興味深く読ませて頂きました。ありがとうございました。)
- 「2003年十勝沖地震における石油タンク被害と対策」
座間信作, 日本地震工学会会誌(No.13), 2011年, pp.7-10
タンク火災についてその概要が報告されています。カラー写真が印象的でしたので引用させてもらいました。また、後段でスロッシング対策について記述がありますが、タンク火災対策として大容量泡放射システムの配備が義務付けられた契機になった事故が本件ということで、そこから得られた教訓の大きさを感じました。
戻る - 「2003年十勝沖地震による周期数秒から十数秒の長周期地震動と石油タンクの被害」
畑山健 他, 日本地震学会和文会誌「地震」(第57巻第2号), 2004年, pp.83-103
地震で被害を受けた石油タンクの地域別分布や構造、仕様、固有周期や観測したスロッシングによる液面上昇量などアンケート調査や現地調査によって詳細にまとめられています。地震波の解析も行われています。
戻る - 「出光興産(株)北海道製油所タンク火災に係る調査概要について(最終報告)」
西晴樹, 横溝敏宏, 消防研究所報告(通巻100号), 2006年3月, pp.59-63
こちらの報告ではタンクの火災原因についての考察が行われており、着火防止策の提言がされています。
戻る - 「2003年十勝沖地震にみる石油タンク被害の特徴と対策」
座間信作, 物理探査(第59巻第4号), 2006年, pp.353-362
文献1と同じ方(文献2の共著者でもあります)による論文です。石油タンクの図が分かりやすくこちらから引用させてもらいました。この地震の教訓は大きいと1で述べましたが、石油タンクの設計に係る技術基準も改正されたという記述が見られました。
戻る