こんにちは!管理人のアカツキです。
今回は火山噴火、特に火山灰の対策について取り上げてみたいと思います。
私たちは火山噴火による災害のことはあまり深く考えていないかも知れません。
しかし、ひとたび大規模な噴火が起こるとその影響はきわめて大きくなります。
何もない平時の時にこそ、災害への意識を持ち、備えていきましょう!
日本は火山大国
日本は良く知られているように、地震、火山活動が活発な国です。
国内にある活火山は現在111となっていますが、さらに気象庁では「火山防災のために監視・観測体制等の充実等が必要な火山」として50の火山が24時間観測・監視されています。
富士山もやがては噴火します
常時観測の対象には富士山も入っています。
富士山も立派な活火山の一つであり、最後の噴火は1707年(宝永4年)の宝永噴火です。
それから現在まで実に300年以上が経過しており、地下にはかなりの量のマグマが供給されていると推定されています。
そのままさらにマグマを貯め込んでいくのか、噴火してマグマを放出するかは分かりません。
しかし未来のどこかでまた噴火を起こすことは確実です。
(富士山噴火については、次の記事でおすすめの参考書を取り上げています)
そしてもしその噴火の規模が宝永噴火に匹敵するものであったらならば、首都圏にも数cm以上の降灰があると予想されています。
たった数cmと思われるかも知れませんが、現在のように電気、ガス、水道などのインフラが張り巡らされ、道路や鉄道が行き交っている社会においては、その数cmが命取りになってもおかしくないのです。
火山噴火による降灰の影響はとにかくたくさん
それでは火山の噴火が起こると、私たちには一体どのような影響があるのでしょうか。
政府の中央防災会議による「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」(以下降灰対策検討WG)によって、特に降灰についての影響がまとめられています。
火山灰の影響はこんなにたくさん!
出展 降灰対策検討WG「大規模噴火時の広域降灰対策について(報告)」12ページより
一言で言うと、とにかくたくさんありますね。
そしてそのどれもが大きな影響を私たちに及ぼすであろうことが読み取れるかと思います。
特にライフラインである電力については、碍子(がいし)と呼ばれる器具にわずか0.3cmの灰が降って雨が降ると停電の恐れがあります。
そうなると浄水場も停電してしまい、送水が止まってしまいます。
停電が起きなかったとしても灰が直接水に降り注ぎますので、水質が悪化します。
そのため浄水能力が追い付かず、断水に追い込まれる可能性もあります。
また、道路は雨が降った場合は3cm以上、降らない場合は10cm以上で走行不可能になってしまいます(二輪駆動の場合)。鉄道もレールに灰がわずか積もっただけで運行停止になるリスクがあります。
このように、わずか数cmの火山灰が降っただけで私たちの社会生活に多大な影響が出ることが想定されます。そして、火山灰は私たちの体にも悪影響を及ぼします。
火山灰で起こると考えられている被害
火山灰が目や鼻などに入るとどのような影響があるのでしょうか。
これについても先のWGが情報を整理しています。
火山灰によって想定される健康への影響
- 呼吸器系疾患・心疾患患者の症状の増悪(ぞうあく)
(増悪は、症状がさらに悪くなってしまうことです) - 目・鼻・のど・気管支の異常など
- 火山灰の付着による皮膚の炎症
- 除灰時の屋根からの転落(実際に例があります)
- 心理的ストレス上昇
- 慢性珪肺症または炎症反応のリスク増加(長期間暴露)
出展 降灰対策検討WG「大規模噴火時の広域降灰対策について(報告) 別添資料2」34ページより
上の一覧のように、目の痛みや呼吸器に悪影響が出る可能性があります。
特にぜんそくや気管支炎の方は症状が悪化するリスクがあることを覚えておいてください。
一方でWGの資料によれば、鹿児島県、特に新燃岳が近い高原町や、桜島がある鹿児島市で火山灰が原因と見られる健康被害の報告は無いということです。
しかし2004年に発生した浅間山の噴火では、一定量以上の降灰地域でぜんそく患者の約43%の症状が悪化したとの報告もあります。
一口に火山灰と言っても、それぞれの火山から出てくるものには成分の違いや大きさの違いがありますから、これだけの量を吸い込むとこのような影響が現れる、と定量的にはっきり言うことは難しいのだと思います。いずれにせよ、なるべく火山灰を浴びないようにすることが大事ではないでしょうか。
火山灰は灰?
ではそもそも火山灰とは何でしょうか?今まで何気なく「火山灰」という用語を使ってきてアレですが・・・。
火山灰とは、噴出したマグマが急に冷やされてできたもので直径が2mm以下のものを言います。
その主な成分は二酸化ケイ素(SiO2)です。
見た目は確かに灰なのですが、つまりはものすごく細かい岩石です。
木などを燃やしてできた灰とは全く成分が違うことに注意が必要です。
そして、この火山灰はいわゆるガラス質の物質で、写真にもある通り角ばっている形をしています。
ですので、車のフロントガラスに積もったときにそれをワイパーでこそぎ落そうとすると、キズが付いてしまいます。火山灰もフロントガラスも同じ「ガラス」ですから。
桜島の噴火による降灰の頻度が高い鹿児島市では、大量の水で灰を洗い流すのが鉄則なのだそうです。そのため洗車需要も他県に比べて多いのだとか。
細かい火山灰に注意!
気を付けたいのは、その粒子の大きさです。
火山灰は大きさが髪の毛と同じミクロン単位(μm、1mmの1000分の1)のものも含まれています。
特に10μm以下の火山灰は、人が取り込むと気管に入り、さらに細かい4μm以下になると、肺に到達すると考えられています。
余談ですが、PM2.5という用語を聞かれた方も多いと思います。
微小粒子状物質と呼ばれるそれは、大きさが2.5μm以下の粒子です。
最近、天気予報などでPM2.5の予測が出されたりと認知度も高くなって来ていると思います。
それはPM2.5も吸い込むと肺に入ってしまうので、主に呼吸器について悪影響が出ると考えられているからなんです。
火山灰については、さらに火山のガス成分(たとえば塩化水素、水に溶けると塩酸になります)も付着していると考えられ、それが肺に入ってダメージを受けてしまうことが考えられます。
以上のことから、火山灰への防災対策として「目を守ること」と「鼻あるいは口から灰を吸い込まない」ことが見えてきます。
そのためのグッズとして、「目」については保護メガネ(ゴグル)、「鼻と口」については防じんマスクが有効です。
さらにヘルメットもあればなお良いでしょう。
また、火山ガス成分が付着した灰が皮膚に触れると炎症を起こすことも考えられます。長袖の服などもいざという時に備え、用意しておくと良いと思います。
火山灰対策グッズ(1) 保護メガネ
それでは、実際に火山灰への対策グッズを見ていきましょう。
まずは「目」への対策として保護メガネです。ゴーグル(goggles、より英語に近い発音でゴグルと言う場合もあります)とも呼ばれます。
目をすっぽりと覆うようになっているので、マスクやメガネをかけていても装着することができるようになっています。
1.重松製作所 LX-22
顔との密着性が良いゴグルです
産業界で働く人向けに防毒マスクなどを提供しているマスクメーカー、重松製作所の保護メガネです。
180度見渡せるパノラマレンズや顔にフィットするフレーム形状になっており、強力な曇り止め性能を持っています。
また、こちらは換気口(ベンチレーター)がありません。換気口があると、外気が取り込まれて保護メガネの中の空気が入れ替わるのですが、その際に火山灰が入ってしまう可能性があります。
ベンチレーターを無くすことで火山灰侵入のリスクを抑えていますが、その分レンズの曇りが心配されます。そのための強力な曇り止め性能と言えるでしょう。
2.3M ゴグル 334AF 40661-00000
インダイレクトベンチレーション採用
アメリカの大手化学メーカー、3Mの保護メガネをご紹介します。
こちらの特徴は、インダイレクトベンチレーションを採用していることでしょう。
インダイレクト(indirect)とは、まっすぐではない、間接的な、という意味の英語です。
そしてベンチレーション(ventilation)は換気という意味の英語です。
ですので、これらを組み合わせたインダイレクトベンチレーションは、間接的な換気方法ということができます。
換気方法には直接あるいは間接による方法がありますが、直接換気では、通気口を通じてゴグル内へ空気が入っていきます。この時、細かい火山灰が通気口から侵入してくるリスクがあります。
一方で間接換気の場合は、通気口がカバーされていますのでゴグル内に火山灰が入ってくるのを防ぐことができる、という理屈です。
換気に加えて曇り止め加工もされていますから、適切に目を保護してくれるアイテムです。
3.山本光学 無気孔ゴーグル YG-5090HF N
外側はハードコート、内側はくもり止め加工
産業用の保護メガネや、スポーツ向けのアイウェア「SWANS」ブランドでおなじみの山本光学による保護メガネです。
こちらは粉じんの多い作業現場に適した作りになっており、ベンチレーターがない無気孔タイプです。レンズの外側にはキズが付きにくいハードコートが、そして内側にはくもり止め加工が施されていてクリアな視界を確保することができます。
火山灰対策グッズ(2) 防じんマスク
続いて防じんマスクです。こちらについては、国(厚生労働省)で規格が定められています。
そして本当にその規格をクリアしているか、検定試験が課せられています。
区分 | 捕集効率(%以上) |
---|---|
DS3 | 99.9 |
DS2 | 95 |
DS1 | 80 |
- 試験粒子を使って捕集実験
- 粒子が捕集される効率で区分分け
- マスクは使い捨て式(D)と取替え式(R)の2種類
- 試験粒子は固体(NaCl)と液体(DOP)の2種類
- 固体を使用した場合はS、液体はL
- 使い捨て式で固体の捕集効率が95%以上
→区分はDS2
(DOPはフタル酸ジオクチルという物質です)
表のように固体粒子(NaCl、塩化ナトリウム、つまり塩ですね)を使用した捕集試験の結果、どのくらいの粒子がマスクにキャッチされたか(捕集効率)によってグレードが決定します。
火山灰の対策であれば、固体粒子について検定をクリアしたDS1あるいはDS2で有効と考えられます。今回はより捕集効率が高いDS2マスクについて取り上げてみました。
ちなみにN95マスクと呼ばれるマスクもありまして、これはアメリカで定められたマスクの規格です。
元々N95マスクは粉じん作業に用いられていましたが、近年は感染症対策で注目され、医療従事者の方々に多く使用されているようです。ちなみに医療分野ではレスピレーターと呼ぶこともあります。
検定に使用する粒子がDS2と同じ塩化ナトリウム(注)であることと、その捕集効率が95%以上とされていることから、DS2マスクとほぼ同等の性能を持っているとされています。
(注)物質は同じですが、ちょっとだけ粒径が違います。N95は0.055~0.095μm、DS2は0.06~0.1μmです。
1.興研 サカヰ式 ハイラック350型
N95規格にも合格しています
日本のマスクメーカー、興研が製造している防じんマスクです。こちらのマスクはDS2規格だけでなく、N95規格にも合格しており、医療従事者の方も使われている実績があります。
そして、ハイラック350型の特徴はそのフィット感にあると思います。
装着面はFF(フリーフィット)リップと呼ばれる部分が顔にピッタリとフィットしてくれます。
私もエンジニア時代に粉じん作業をしていた時があり、このマスクにお世話になっていました。
よくフィットして使いやすかったことを覚えています。
ただ、このグレードのマスクはきっちりフィットさせると息苦しさを感じることがあると思います。
より呼吸を楽にしたい!という場合は排気弁が付いたハイラック355型(Amazon参考価格3,433円(税込み))もオススメです。
2.重松製作所 防じんマスク DD02-S2-2K
Λ(ラムダ)形の保形テープで、丸みのある立体構造をキープ
先ほどの保護メガネでも取り上げました重松製作所の防じんマスクです。
こちらのマスクは真ん中に山があるデザインになっていて、着用時により呼吸や会話が楽になるようになっています。
この立体的な構造をキープするために、特徴的な逆Vラインの保形テープが使われています。
この保形テープを、ギリシャ文字のΛ(ラムダ)の形と捉えてラムダラインと呼んでいます。
しめひもにアジャスターが付いていますので、フィッティングはややこちらが楽になると思います。
興研のマスクと同様に、排気弁付きのモデル(楽天参考価格2,640円(税込み))もありますよ。
3.3M Vフレックス 9105J-DS2
コンパクトな折りたたみ型
3MもDS2規格の防じんマスクを製作・提供しています。様々なタイプがありますが、今回はこの二つ折りタイプを取り上げてみました。重松のマスクも二つ折りタイプですが、こちらはより携帯性を意識して平面型の折りたたみになっています。
マスクは展開するとあごを包み込むくらいまでになり、フィット性を向上させています。
口周りに空間ができるので、より呼吸が楽にできると思います。
ちなみに、Amazonでは先ほどご紹介しましたゴグルとセットで販売されています(参考価格2,595円(税込み))。
マスクはしっかりフィットさせよう!
ここまで取り上げた防じんマスクは、いずれも高い防じん性能を備えています。
カタログなどを見ると、いずれのメーカーのマスクもDS2区分でありながらDS1に近い捕集効率を持っています。
しかし、そんな高性能なマスクもしっかりフィットさせなければ意味がありません。
実は、一般の不織布(ふしょくふ)マスクもその捕集性能自体は防じんマスクに引けを取りません。
以下に示した記事の2ページ目に、その一例が出ています(あくまでも一例です)。
ポイントは「マスクで顔をすき間なく覆うことができているか」ということです。
もしあなたが向かってくる粉じんだとすれば、どこから人間様に侵入しますか?
玉砕覚悟で顔面に真正面からぶつかる?
それよりも頬だとかあごだとか、そういう所のちょっとした顔とマスクのすき間からシュッと入り込むほうが、はるかに楽な気がしませんか?
そしてこれは呼吸による空気の流れを考えると妥当な考えですよね。
ですので、言ってしまえば普通のマスクでもきっちりフィットさせれば火山灰もある程度防ぐことができる!ということになります。
・・・なんともこの記事の根幹を揺るがしかねない結論ですが、つまりはそういうことなんです。
防じんマスクはそのフィッティングの事もしっかり考えて作られていることをしっかりと押さえてください。
ただ、防じんマスクのフィッティングはちょっとだけ手間が必要です。
これについてはメーカー各社から装着方法についてガイドが出ていますので、ぜひこちらも参考にしてみてください。
- 興研
ハイラック350装着のしかた、はずしかた(PDFファイル、約0.4MB)
(医療従事者向けの解説ですが、基本は変わりません) - 重松製作所
ラムダラインシリーズ装着方法(PDFファイル、約1.4MB)
(今回は二つ折りタイプを取り上げましたので、2からスタートです) - 3M
使い捨て式防じんマスク装着方法(PDFファイル、約0.3MB)
装着方法を動画でも解説しています
余談です
ここは、完全に余談の部分です。
昨今は新型コロナウイルスの影響で外出時は常にマスク装着をすることが一つの規律のようなものになっています。そのため、私たちはマスクというものが大変身近な存在になりました。
ところでそのマスクですが、どのように微粒子などをカットしているのでしょうか?
そのような疑問を持ったことはないでしょうか?
もしかしたら、マスクは繊維がものすごく細かくなっていて、そのすき間より大きな粒子はそこでぶつかり、小さな粒子が通り抜ける・・・そのように何となく思ってはいないでしょうか?
実は、粒子が小さくなるほど繊維のフィルターにキャッチされます。これはブラウン運動(拡散)という現象と、静電気力によります。このことが、先に普通のマスクでも火山灰をある程度防ぐことができる、と述べた根拠になります。ですがそれは完全なフィッティングが前提です。
これらの議論については、以下の日本エアロゾル学会の見解もぜひご覧ください。
(サイト中段、新型コロナウイルスや花粉症でのマスク装着に関する日本エアロゾル学会の見解)
まとめです
今回の防災グッズは「火山灰対策」として「保護メガネ」と「防じんマスク」を取り上げました。
火山噴火の対策は、火山灰の他にも火山ガスがあり「CFASDM004」という規格が存在します。
こちらに対応するマスクは二酸化硫黄や硫化水素などの火山ガスを除毒できる性能などが問われ、ガスマスクタイプのものやフードになっているものがあります。
ちなみに鹿児島市では、桜島の噴火というものは日常の一部とも言える出来事なのだそうです。では市民はどのような備えをしているのか?というのが気になるところです。少し調べた限りでは、あまり気にしていないような情報もありましたが、いつの日か現地で調べてみたいと思っています。
火山の噴火は、私たちの考える時間スケールではなかなか直面することは無いのかも知れません。
しかし日本は火山国であり、噴火のリスクが常にあるのも事実です。
平時から災害リスクを想定し、備えていくのが防災であるならば、やはり火山噴火の対策も考えていく必要があるのではないでしょうか。これからも備えを進めていきましょう!