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あなたの町の放送局「コミュニティFM」

防災豆知識

こんにちは、管理人のアカツキです。今回の防災お役立ち情報は「コミュニティFM」についてです。

私たちはテレビやネットから常に様々な情報を取得していますが、そのようなメディアにはラジオ放送もあります。受信機が無いと放送が聴けない時代もありましたが、今ではradikoに代表されるようにインターネット経由で放送を聴くことができるようになりました。

そして今回取り上げるコミュニティFMはラジオ放送、特にFM放送の一つの形態になります。平時には地域に密着した情報を放送し、災害時にはその地域密着性を最大限活用した情報を発信する点において、近年さらに注目が集まってきています。

そこで今回の記事では、コミュニティFMとはどのようなものなのか、見ていくことにしましょう。

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コミュニティFMとは?

一言で表現すれば、わが町のラジオ局、と言えるでしょう。

コミュニティ(community、ここでは町などの同じ地域に住んでいる人たちの集まり、という意味合いで捉えられるかと思います)とあることから全国的に聴くことができるようなものではなく、〇〇市の一部の地域などより絞り込んだ範囲で発信されるFMラジオ放送コミュニティFMと呼ばれています。以後、本記事ではCFMと略します。

後段で述べますが、法律による定義としては、放送法施行規則の第六十条で規定されており、別表第五号という一覧表で示されています。それによれば

「コミュニティ放送」とは、一の市町村の一部の区域(当該区域が他の市町村の一部の区域に隣接する場合は、その区域を併せた区域とし、当該区域が他の市町村の一部の区域に隣接し、かつ、当該隣接する区域が他の市町村の一部の区域に隣接し、住民のコミュニティとしての一体性が認められる場合には、その区域を併せた区域とする。)における需要に応えるための放送をいう。

出展 e-Gov法令検索「放送法施行規則 別表第五号(第六十条関係)(PDF)」

となっています。より地域性が強い放送ということになるでしょう。

インターネット経由で聴くことができます

CFMは限定された出力で放送を行っているため、聴くことのできるエリアが限られます。たとえば北海道の函館市にあるFMいるか(80.7MHz)では函館市や北斗市、七飯町(ななえちょう)の一部で聴取することが可能です。

FMいるかの聴取可能なエリア
「FMいるか」の聴取可能なエリア
出展 「FMいるか-アクセスマップ・放送エリア
FMいるかはコミュニティ制度が始まって最初に開局したCFMです(1992年(平成4年)12月24日)

CFMはラジオ放送ですから、原則そのエリアでラジオの周波数を合わせないと聴くことができません。しかし現在はインターネット上で放送を聴くことが可能です。そのための配信サイトとして大きく三つのサイトがあるようです。基本的には各放送局のサイトで「インターネットで聴く」といったガイドがありますので、それに従うことで該当する配信サイトに移動し、放送を聴くことができます。

もしくは直接下記の配信サイトに移動することで放送局を選ぶこともできます。

  • JCBAインターネットサイマルラジオ
    JCBA(日本コミュニティ放送協会)によるサイマル配信(同じ時間帯に同じ番組を別の放送方法で放送すること)サイトです。
  • ListenRadio(リスラジ)
    株式会社ディーピーエヌが運営する配信サイトです。
  • CSRA
    コミュニティ・サイマルラジオ・アライアンス(CSRA)による配信サイトです
    ただ更新が数年ほど滞っているように見えます。放送を聴こうとすると先のリスラジにアクセスするケースが多いので現在は有効に機能していないように思えます。
    JCBAインターネットサイマルラジオあるいはリスラジを活用されると良いでしょう。

CFM局は全国に339局

さて、CFM局は全国にどのくらいあるのでしょうか。電波の取り扱いは総務省が管轄しており、そのデータによると2022年(令和4年)12月1日時点で全国に339局あります。

コミュニティ放送事業者数の推移
コミュニティ放送事業者数の推移
出展 総務省 電波利用ホームページ「コミュニティ放送の現状

こちらの図にも示されていますが、1995年(平成7年)を境にして開局する事業者数が増えていることが見えるかと思います。平成7年は阪神大震災が発生した年であり、震災を機にCFMの開局数が増えてきたことを示しています。

なぜ震災によって開局が相次いだのか、ということですが、次のような二つの大きな理由があるからではないかと思います。

  1. 地域に特化した災害情報の提供
  2. 防災行政無線との比較

これらについて少し取り上げてみましょう。

1.地域に特化した災害情報の提供

まず1についてですが、これはまさにCFMの特色といえる地域特化の情報媒体としての役割が発揮されたからでしょう。

大きな災害が起これば当然報道各社は取材をしてそれを報道します。しかし全国放送などではその取り上げる範囲は必ずしも被災地に特化したものではありません。

例えばあなたのお住いの地域で災害が発生した場合、全国放送のテレビ番組が一日中あなたの地域のある小学校で給水所を開設している、だとか隣の街に繋がる国道〇号線が寸断されている、といった現地の人が今一番知りたい情報を放送するか、というとそうではないですよね。

こういった部分の情報に対して、CFMはローカルな被災地の情報を事細かに伝えることが可能です。

実際に阪神大震災が発生した後、在日外国人のために多言語で災害情報を発信するFM局が立ち上がり、それが前身となってFMわぃわぃというCFM局になった経緯があります。そしてこのような事例は多く記録に残っています。記事の後半ではその一例として、鹿児島県奄美市にあるあまみエフエムの事例も取り上げています。

全国規模の放送ではカバーできない地域の情報に強みがある・・・この点はコミュニティFMが災害時に有用なメディアであると特に言えることだと思います。

2.防災行政無線との比較

2については主に設置費用の違いが言えるでしょう。防災行政無線は、災害時の避難や応急救助などに関する情報などを屋外にあるスピーカーなどから周辺の住民に呼びかける手段です。平常時は市町村からのお知らせを定時に放送している自治体もあるようです。

防災行政無線のシステム構成イメージ
防災行政無線のシステム構成イメージ
出展 総務省「防災行政無線とは・市町村防災行政無線のデジタル化

防災行政無線は、この図のように役所などにある親局から屋外に設置したスピーカー(図では拡声器とされています)や各家庭にある受信機に避難情報などを発信するシステムになっています。そのため、その市町村に住んでいる全ての人達に同じ情報が届くようになっています。

ですがそれを実現するためには拡声器の数も増えることになり、設置費用に加えて更新費用も必要になってくることになります。ではその費用は大体どのくらいになるのでしょうか。これについては古い情報になりますが、CFMについて書かれた論文1)があり、それによると

CFMと防災行政無線の比較
CFMと防災行政無線の比較
出展 文献(1) 33ページ 表1

となっています。設置費用、維持費ともにCFMは防災行政無線と比べて桁一つ分少なくなっています。一方で防災行政無線の導入には補助制度2)が設けられています。しかし補助があるとは言っても、その運用にかかる費用は自治体にとって負担になることは変わりありません。

以上のことから、CFMは災害時に有用なメディアであり、同じく地域住民に災害情報を伝える防災行政無線と比較して運用のコストが安いことが言えます。これらの点が自治体の関心を集め、コミュニティFM局の開設が進んだのだと考えられます。

現在全国に300を超えるCFM放送局。そもそもCFMはいつの頃から登場した放送形態なのでしょうか。次の節ではCFMの時代背景を見ていくことにしましょう。

CFMの歴史は30年以上

CFMが国によって制度化されたのは、今をさかのぼること31年1992年(平成4年)の1月のことです。制度的には「コミュニティ放送」と称し、超短波(VHF)という電波を用いて行う放送(FM放送)とされています。一般的にコミュニティFMと呼ばれている所以はここにあります。

はじまりはテレトピア構想から

まずは制度化までの流れを見ていきましょう。この流れについては日本コミュニティ放送協会(JCBA)が発行している「日本コミュニティ放送10年史3)」がたいへん詳しいため、以下はこちらの情報も参考に見ていくことにします。一連の流れは以下の図の通りです。

コミュニティ放送制度化までの流れ
コミュニティ放送制度化までの流れ

少し時代の背景を振り返りますと、1970年代から80年代にかけては、カラーテレビの普及やFMラジオ局の開設などが進みました。メディアの数が増えていく中、ミニFMなどより生活圏に即した情報なども発信されていくようになりました。

そうした背景もあり、地域の活性化、つまり地域振興を行うためにより小さな地域でメディアを普及させようという動きが出てきました。それが先ほどの図の最初にあるテレトピア構想です。現在の総務省の前身である郵政省によって提唱されました。

テレトピアとは造語でテレ(tele)はテレコミュニケーション(telecommunication、teleは「遠くへ」といった接頭辞であり、この場合は遠くの人とコミュニケーションを取る=電気通信といった意味になります)を示し、トピアは「想像上の理想とする場所」という意味で使われることのある理想郷、つまりユートピア(一般的にはそのように理解されていますが、別の意味もあるようです)を組み合わせたものになっています。

この構想が実際に郵政大臣の諮問機関(しもんきかん、ある案件に対して専門家などが集まり、意見をまとめる機関のことです。諮問の諮(し)という漢字は「はか-る」と読み、相談したり意見を求める、という意味があります)である「ニューメディア時代における放送に関する懇談会(1987年(昭和62年))」に諮られて議論が行われました。この報告書において

「多種多様な情報ニーズに応えるため、県域よりも小さい、例えば市町村単位程度を放送対象地域とするFM(小規模FM)等の導入の可能性について検討する必要がある」

という文言があり、コミュニティ放送に繋がる提言が行われました。

続いて図の真ん中あたり、元号が変わって1990年(平成2年)に「放送の公共性に関する調査研究会」が開かれました。この研究会においても

「地域の多様なニーズにより柔軟に対応できるよう、現在の県域単位を中心とした放送対象地域のほかに、より小地域の単位を放送対象地域とするコミュニティー放送のようなものの導入も検討する必要がある」

との報告がなされています。これらを受け、当時政府で行われていた第三次行革審(臨時行政改革推進審議会)の「国際化対応・国民生活重視の行政改革に関する第一次答申(1991年(平成3年))」において

「地方における放送の多局化を進めるとともに、情報通信基盤整備の地域格差の是正を図る。また、情報集積・処理機能を充実する」

と答申されたことを受け、郵政省はコミュニティ放送の制度化を決めました。

ではどのような放送をコミュニティ放送と決めたのか、ということについてですが、放送についての決まりごとを決める法律(放送という用語自体も決めています)となる「放送法」の法体系である「放送法施行規則」によって規定されました。

放送法施行規則によるコミュニティ放送の規定
放送法施行規則によるコミュニティ放送の規定
出展 文献(3) 「第一章 協議会の誕生、そして始動」15ページ

こちらの別表第一号にある通り
国内放送 → 地上系による放送 → 超短波放送 → 一般放送事業者の放送 → コミュニティ放送
と詳細に区分が決められることとなりました。

2010年(平成22年)からコミュニティ放送は基幹放送に区分

法改正で基幹放送が登場

ところで、法律というものはその時代の状況に即して適宜改正が行われていくものです。先にお示しした放送法施行規則も例に漏れず、数多の改正が繰り返されています。その中においてコミュニティ放送の立ち位置も変わっていくのですが、特に大きく変わったのが2010年(平成22年)のことです。この年、放送法が大きく改正されました。

放送法第二条第二号
 「基幹放送」とは、電波法(昭和二十五年法律第百三十一号)の規定により放送をする無線局に専ら又は優先的に割り当てられるものとされた周波数の電波を使用する放送をいう。

出展 e-Gov法令検索「放送法施行規則

こちらは放送法の第二条第二号の条文です。これによって「基幹放送」なる新しい放送区分が制定されました(同条第一号では「放送」の定義についても変更があり、有線と無線による放送の区別が一本化されました。以前は別の法律(有線テレビジョン放送法)において有線放送が規定されていました)

ではこの基幹放送とはどういったものなのでしょうか。何となく基幹という言葉の意味から、様々ある放送の種類の中でもその中心にある放送、欠かせないものである、そのように考えてしまいます。

そこで条文、特に後段を読み返しますと、基幹放送というものの定義が見えてきます。つまり国から割り当てられた周波数の電波を使って行う放送が基幹放送と呼ばれるということです(この後に続く第三条では一般放送が定義され、それは基幹放送以外の放送ということになっています)。

使用する周波数は?

では基幹放送はどのような周波数の電波を使用しているか、ということになります。これについては総務省で基幹放送用周波数計画が策定されており、それによればコミュニティ放送は『「第一 総則」の10』において次のように規定されています。

10 コミュニティ放送を行う基幹放送局に使用させることのできる周波数等は、個別に定めるものとする。この場合において、原則として、周波数は次の周波数のなかから選定し、空中線電力は20W以下で必要最小限のものとする。

76.1MHz、76.2MHz、76.3MHz、76.4MHz、76.5MHz

出展 総務省「基幹放送用周波数計画

つまり原則として上枠内で示された五種類のいずれかの周波数でコミュニティ放送を行ってください、ということです。しかし先に述べたコミュニティFMの例を見ても分かる通り、使用している周波数はこれらに限りません。何しろ最初に開局したFMいるかが80.4MHzですから。

計画で示されているようにあくまでも枠内からの使用周波数の選定は原則であり、実際の運用はその地域にある別の放送局が使用している電波の使用状況などの実情に即して決められるのでしょう。また電波の出力(空中線出力。空中線とはアンテナのことです)も地域によっては変更されており、北海道稚内市にあるFMわっぴ~(76.1MHz)は出力50Wで放送を行っています(全国のCFMでここだけです)。

一方で同じ「総則2の(1)イ」にあるように超短波放送においては

76.1MHzから94.9MHzまでの0.1MHz間隔の周波数

出展 総務省「基幹放送用周波数計画

とされており、コミュニティ放送はもともと超短波を利用して行う放送でしたから上のように使用する周波数帯が広がります。実際に総務省から出されている「コミュニティ放送局開設の手引き」の第一章において

76.1MHzから94.9MHzのFM放送の周波数帯の電波を利用するため、一般に市販されているFMラジオやカーラジオで聴くことができます。

出展 総務省情報流通行政局 衛星・地域放送課地域放送推進室
コミュニティ放送開設の手引き(PDF)」(令和3年12月) 1ページ

という文言があったり、放送を行うためには無線局を開設する必要があるのですが、その申請書の記入ガイドには

コミュニティ放送の周波数帯についての記述
コミュニティ放送の周波数帯についての記述
出展 総務省情報流通行政局 衛星・地域放送課地域放送推進室
コミュニティ放送開設の手引き(PDF)」(令和3年12月) 35ページ

と使用する周波数について先の文言と同様の範囲が示されています。

区分は放送対象地域による区分

法律が改正されるとそれに伴って施行規則も改正されます。となると再掲になりますが

放送法施行規則によるコミュニティ放送の規定
放送法施行規則によるコミュニティ放送の規定
出展 文献(3) 「第一章 協議会の誕生、そして始動」15ページ

こちらの区分も基幹放送が新たに登場したことによって変わることが予想されます。事実これについても改正が行われ、2011年(平成23年)6月29日に出された総務省令第六十二号(インターネット版官報へのリンクです。4ページから80ページ目まで施行規則改正に関する記述が見られます)によって次のような区分になりました。

改正後の放送法施行規則 (1)
改正後の放送法施行規則 (1)
出展 e-Gov法令検索「放送法施行規則 別表第五号(第六十条関係)(PDF)」
改正後の放送法施行規則 (2)
改正後の放送法施行規則 (2)
出展 e-Gov法令検索「放送法施行規則 別表第五号(第六十条関係)(PDF)」

今まで別表第一号で示されていたコミュニティ放送の区分が、新たに規定された第六十条を受けた別表第五号によって行われています。今まで超短波放送による区分になっていましたが、改正後は「 放送対象地域による基幹放送の区分」に変更されています。

また(注)十においてコミュニティ放送はどのような放送か、といった説明がされています。この部分については概ね改正前の説明と変わりは無いようです。

コミュニティ放送はFMラジオ放送によって行われていますが、それが法律上はどのような区分になっているのか、ここまで見てきました。続いてそのコミュニティ放送の強みの一つと言える「地域に密着した情報提供」について、特に災害時における事例を取り上げ、その具体例を見ていきたいと思います。

「あまみエフエム」に見るCFMの災害時対応

鹿児島県の奄美市(あまみし)に「あまみエフエム」というコミュニティ放送局があります。中心地である名瀬(なぜ)から「島ッチュの島ッチュによる島ッチュのための島ラジオ」として島の情報を発信しています。

あまみエフエム ディ!ウェイヴ

  • 開局日 2007年(平成19年)5月1日
  • コールサイン JOZZ0BD-FM
  • 周波数 77.7MHz
  • 出力 20W
  • ディ!(di)は奄美大島の方言で「さあ、~しよう!」という掛け声
あまみエフエムの聴取可能なエリア
あまみエフエムの聴取可能なエリア(2010年4月現在であることに注意です)
出展 あまみエフエム ディ!ウェイヴ!掲載論文4) 13ページ

今から13年前の2010年(平成22年)10月20日、奄美地方を記録的な大雨が襲い、災害が発生しました。今回の事例では、この豪雨を受けて緊急放送を行ったあまみエフエムの対応を取り上げます。

奄美市の位置を確認

まず奄美市について、その位置を確認しておきましょう。鹿児島県の南から沖縄県にかけて続く島々の内、奄美大島と呼ばれる島に所在しています。地図では以下のようになります。喜界島の西側にあるのがそうですね。

奄美大島の位置関係
奄美大島の位置関係
出展 国土地理院「地理院地図

奄美大島は一つの市、二つの町、二つの村から構成されており、全体で人口は6万人弱で奄美市が最も多く、約4.1万人になっています。

自治体名人口(人)
奄美市(あまみし)41,390
大和村(やまとそん)1,364
宇検村(うけんそん)1,621
瀬戸内町(せとうちちょう)8,546
龍郷町(たつごうちょう)5,817
合計58,738
奄美大島の各自治体の人口(令和2年10月1日現在)
出展 鹿児島県「令和2年 国勢調査

豪雨災害の発生(2010年(平成22年)10月20日)

繰り返しになりますが、この奄美大島において2010年(平成22年)10月20日、1日に降る雨の量としては観測史上一位(奄美市名瀬)となる非常に強い雨が降りました。その降水量は622mmであり、この記録は現在においても名瀬で観測した最多雨量となっています。

この大雨は2000年代の台風において海上で最も気圧が低くなった(885hPa)台風13号と、同時期に奄美大島付近にまで南下した停滞前線によって引き起こされたものです。

2010年10月20日9時の天気図
2010年10月20日9時の天気図
出展 気象庁「日々の天気図 2010年10月(PDF)」

上の画像で左下、台湾の南西側に同心円状の等圧線が少し見えるかと思います。これが台風13号です。また鹿児島県の南側には停滞前線が見えます。この台風は日本には向かわず、フィリピンに上陸するルートを取ったのですが、その過程で暖かく湿った空気を日本にもたらしました。それが前線を活発化させて記録的な豪雨になったと考えられています。

奄美市ではこの豪雨災害から10年が経過した2020年(令和2年)にパネル展を実施しています。その時に展示された内容が閲覧できるようになっています5)。それによればこの豪雨による被害は次のようなものでした。

豪雨災害の被害概要
豪雨災害の被害概要
出展 文献(5) 「当時の声・主な被害箇所・集中豪雨の状況」4ページ

被害は奄美市だけでなく、奄美大島の全域に及んでいることが見えてくるかと思います。その時の状況として次のような画像が記録されています。

被害の様子 (1)
被害の様子 (1)
出展 文献(5) 「当時の声・主な被害箇所・集中豪雨の状況」7ページ
被害の様子 (2)
被害の様子 (2)
出展 文献(5) 「当時の声・主な被害箇所・集中豪雨の状況」9ページ

特にこの住用(すみよう)地区では、20日午前10時から午後1時までの降水量(3時間降水量)が354mmを観測しています。この値は100年に1度と言われる雨量(195mm)の約1.8倍に達しており、その降水がどれだけ凄まじいものだったかを物語っています。結果として亡くなられた方もおられます。

住用地区の周辺情報
住用地区の周辺情報
出展 あまみエフエム ディ!ウェイヴ!掲載論文6) 1ページ

住用の雨量観測は鹿児島県の雨量計データによるもので7)気象庁のアメダスによるデータとは区別されています。

一方で、台風に関するデータベースサイト「デジタル台風」ではアメダスによる集中豪雨のデータも収集しており、こちらによれば歴代の3時間降水量が最も多かったのは沖縄県の多良間村(たらまそん)で1988年(昭和63年)4月28日に記録した383mm(多良間観測所、現在は仲筋(なかすじ)観測所が観測を行っているようです)となっております。

つまり住用で記録した3時間降水量は、多良間村に次いで多い雨量であり、実質全国で歴代2番目に多い値と言えます(次点は北海道登別市の登別観測所で338mm)。

緊急放送への切り替え

このような状況の中、あまみエフエムにも被害を知らせるメールが届き始めます。朝7時前に常連のリスナーから写真が添付されたメールで自宅周辺が冠水しているとの情報が入りました。警察からも同じ地区の冠水情報土砂崩れの情報が入電しました。

そこで局では通常7時30分から予定している生放送番組を15分繰り上げ、交通、気象情報を伝える放送を始めました。

一方で雨は降り続け、各地の状況が悪化していきます。リスナーからさらに土砂崩れなどの報告が寄せられてきました。13時過ぎ、画像が添付されたメールが局に届きました。住用役場の職員からの連絡ということです。その画像が先ほどの被害の様子(2)でした。

この画像写真によって局のスタッフは雨による災害の状況が深刻なものであると認識をしました。その後、スタッフの一人が市役所に出向き、そのまま詰めることになり市の災害対策本部からの情報をあまみエフエムに伝えることとなっています。

そして15時13分、あまみエフエムは放送を継続的な緊急放送に切り替えて(CMを差し込まず)災害対策本部など関係機関から入ってくる情報やリスナーからのメールなどを読み上げる体制にシフトしました。この緊急放送は、その後24時間休みなく5日間続き、24日19時30分頃に奄美市長との電話中継を行い、20時をもって通常の番組編成に戻りました。

この放送内容は防災科学技術研究所(防災科研)が論文8)としてまとめており、5日間の様子が実に174ページもの膨大な記録として残されています。

緊急放送はインターネットでも配信

あまみエフエムがこの豪雨災害に対応して行った緊急放送は、多くの人に必要な情報を発信したことで国土交通省などから表彰(平成23年度土砂災害防止功労者国土交通大臣表彰)を受けたりするなど、功績が讃えられました。

この事例に対し、地域内外への情報発信とその循環の構図についての論文9)が出されていますが、その中で当時の様子は「電波伝言板」のようだと形容されています。リスナーからの問い合わせが増え、それを確認して放送で返していくのですが、先の被害写真がきっかけで全国放送でも奄美の豪雨が取り上げられるようになりました。

その結果、島外からのメール件数が増加し始めます。しかし放送はコミュニティ放送ですので情報の発信は奄美大島内(とは言え、全域ではありません。災害発生前の2010年1月には宇検村にエフエムうけんが開局し、あまみエフエムと提携放送を行う体制になっていましたが、大和村は放送エリアになっていませんでした)に限られます。

そこであまみエフエムは動画配信サービスのUstream(ユーストリーム、現在は終了しています)経由で音声を流し、公式ツイッターも開設して島外にも積極的な情報配信を開始しました。こういった取り組みもあり、先の論文によれば島外からのメールは1都2府1道26県から発信されたとのことです。

また緊急放送において、市の災害対策本部から避難者リストの公開許可をもらい、それを番組で読み上げることも行いました。

災害発生から三か月後の2011年(平成23年)1月20日に、あまみエフエムの主催による災害放送シンポジウムが行われています。その場で避難者名簿の放送について、個人情報保護という点から議論になっています。行政側もかなり迷ったということですが、その情報によって安心できたという声が多く寄せられたとのことです。結果的には出して良かったと思うとのコメントがされています。

さて、今回の放送で局に入ってきた情報元について次のような分析結果が出ています。

局に寄せられた情報元の分類
あまみエフエムの災害放送の情報提供主体(9分類)
出展 文献(4) 18ページ 表10

行政側の情報が多いですが、リスナーからの件数が最も多い点が目を引きます。

あまみエフエムは災害発生前年の2009年(平成21年)5月に奄美市と防災協定を締結しています。当初は市から情報が入ってこない状況ということでしたが、スタッフの一人が災害対策本部に詰めて情報の橋渡しを行っていった結果、スムーズな連携が取れるようになり、共働的な関係になっていきました。

リスナーが知りたい情報や伝えたい情報を局に伝え、それに対して関係機関が対応し、局が放送でリスナーに伝える・・・という構図が見えてきます。

この構図が成り立つためには常日頃からCFMと住民との間で良好な関係が築かれていることが必要であり、奄美豪雨災害は、わが町のラジオ放送局であるCFMが大きく機能した学ぶべき点が多い事例だと思います。

まとめです

今回の防災お役立ち情報は、「コミュニティFM」を取り上げました。地域のラジオ局としてその町の住民が参加して一緒に作り上げていく放送局は、町の情報はもちろん、災害時には一番欲しい情報を発信してくれることでしょう。

CFMは今年も新たな局が開設あるいは開設に向けて準備を進めています。調べた所では次の4局が開設に向けて必要な手続きを進めているようです。

開設地域開局予定CFM名運営サイト
北海道苫小牧市2023年(令和5年)6月FMとまこまいFMとまこまい実行委員会
埼玉県上尾市2023年(令和5年)あげお・いなエフエムあげおエフエム株式会社
北海道栗山町2024年(令和6年)春エフエムくりやまエフエムくりやま
栃木県足利市2024年(令和6年)春FM DAMONO足利コミュニティFM株式会社
(Youtubeチャンネル)


最初にも少し触れましたが、CFM放送は今やその地域に限られたものではなく、インターネットを通して遠く離れた地でも聴取することが可能になりました。ラジオ放送は決して昔のメディアではなく、今に至っても新たな試みが行われているメディアだと言えるのではないでしょうか。

日常の生活の一部として、防災情報を得られる重要な手段として、CFMに耳を傾け、また局の番組作りにも参加してみませんか。


(記事を執筆するにあたり、次の文献が大いに参考になりました。ありがとうございました。)

  1. 多様化するコミュニティ放送」,田村紀雄,染谷薫,東京経済大学人文自然科学論集(119),2005年
    コミュニティ放送について歴史的な背景やケーブルテレビなどのメディアとの比較、経営状況、その開設主体などについて総論的に書かれている論文です。書かれた時代もあり、多くの論文に引用されているようです。特にコミュニティ放送でCMを入れる価格が安いことや開設主体が第三セクター、大学、市民、村長など様々であることは非常に興味深いものがありました。

    開設主体で見ますと、昨年2022年(令和4年)10月、神奈川県横浜市金沢区に開局した金沢シーサイドFM(85.5MHz)は大学生によって設立されたものであり、そのバリエーションの広さを感じました。設立のきっかけは2019年(令和元年)台風第13号、令和元年房総半島台風によって金沢区の臨海部が浸水被害を受けたことということです。
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  2. ポスト東日本大震災の市町村における 災害情報伝達システムを展望する~臨時災害放送局の長期化と避難情報伝達手段の多様化を踏まえて~」,村上圭子、放送研究と調査(2012年3月号)
    50ページに防災行政無線に関する記述があり、注釈として71)と72)が加えられています。これらは59ページに解説があり、補助制度について触れられています。この論文は主に臨時災害放送局について書かれたものですが、こちらについても取り上げていければと思っています。
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  3. 日本コミュニティ放送協会10年史 ~未来に広がる地域の情報ステーション」,日本コミュニティ放送協会,2004年
    コミュニティ放送の歴史についてつぶさに記された一冊です。JCBAの活動を軸にコミュニティラジオの広がりや防災との関わりなどがまとめられています。
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  4. 平成22年10月奄美豪雨の災害対応」,長坂俊成,坪川博彰,李 泰榮,鈴木比奈子,木ノ下勝矢,天野竹行,防災科学技術研究所主要災害調査(46),2011年
    防災科学技術研究所(防災科研、NIED)による奄美豪雨の調査結果をまとめた論文です。コミュニティ放送についての記述もありますが、近隣住民が協力して高齢者の避難行動を取ったことについても調査報告されています。

    NIEDでは災害の調査報告を行い、その結果を発表しています。それらは研究成果データベースとして閲覧できるようになっていると思うのですが、アクセスするとタイムアウトになってしまいます。現在は公開を停止しているのかも知れません。当該のレポートはあまみエフエムのサイトに掲載されています。

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  5. 奄美豪雨災害から10年」,奄美市,2020年
    同年10月20日から11月1日まで行われたパネル展の内容が公開されています。テーマごとに合計三つの展示が閲覧できます。
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  6. 平成22年10月奄美豪雨の災害対応(口絵)」,長坂俊成,坪川博彰,李 泰榮,鈴木比奈子,木ノ下勝矢,天野竹行,防災科学技術研究所主要災害調査(46),2011年
    防災科学技術研究所(防災科研、NIED)による奄美豪雨の調査結果をまとめた論文4)の図や写真の付録になっており、補完的な内容になっています。
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  7. 平成22年10月奄美豪雨災害の検証(記録誌)」,奄美市,2013年,2ページ
    奄美市によってまとめられた豪雨災害の記録です。あまみエフエムについても51,52ページで取り上げられています。
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  8. 平成22年10月奄美豪雨の災害対応(別表1 あまみFM災害放送の内容)」,長坂俊成,坪川博彰,李 泰榮,鈴木比奈子,木ノ下勝矢,天野竹行,防災科学技術研究所主要災害調査(46),2011年
    防災科学技術研究所(防災科研、NIED)による奄美豪雨の調査結果をまとめた論文4)について、あまみエフエムの放送内容をまとめた一覧表です。本文でも触れましたが、分量がとても多いです。録音した放送を全て聴いて書き起こしをしたのでしょうか。著者らの調査にかける情熱を感じました。
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  9. コミュニティFM災害放送における情報循環プロセス : 2010年・奄美豪雨水害の災害放送とクロスメディア活用を事例として」,古川柳子,マス・コミュニケーション研究(81),2012年
    あまみエフエムの豪雨災害時における対応を関係者の聞き取りや放送内容などを分析し、災害メディアとしてのコミュニティFMについて述べられた論文です。より当時の状況を再現した記述が見れら、切迫感が伝わってきます。

    同著者による論文があまみエフエム公式サイトの掲載論文で閲覧できますが、本論文は改めて清書を行ったものと思われます。

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コミュニティ放送や奄美豪雨に関する論文・記事は、ここで示した以外にも少し収集しました。もしコミュニティ放送を調べられている方がおられましたらツイッターまでご連絡を頂ければ文献リストをご提供致します。

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