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防災を考えるための一冊「人に寄り添う防災」

これからの防災とは 防災お役立ち情報
これからの防災とは

こんにちは、管理人のアカツキです。
少し前から災害や防災に関する書籍を購入して読み始めています。
そしてそれらをご紹介する、という取り組みを始めています。

今回の防災お役立ち情報は、その3冊目「人に寄り添う防災」を取り上げてみます。

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集英社「人に寄り添う防災」

  • 著者 片田敏孝(かただ・としたか)
  • 定価 858円(税込み)
  • 出版社 集英社
  • ISBNコード 9784087211344
  • 発売日 2020年(令和2年)9月17日

著者である片田敏孝さんは、東京大学大学院情報学環特任教授をされており、日本災害情報学会の会長を務められております。災害情報学、災害社会工学を専門とし、防災の研究者として長いキャリアをお持ちです。その防災研究者である片田さんがお書きになられた本はどのような内容なのでしょうか。まずは目次を見ていきましょう。

目次
はじめに 
「自粛の要請」とコミュニケーション
第1章 
荒ぶる自然災害ー被災地で今起こっていること
第2章 
日本の防災の大転換
第3章 
行政主導の防災の限界ーゼロリスク期待の幻想
第4章 
地域社会は災害リスクとどう向かい合うべきか
第5章 
災害に向かい合う人の心情を理解する
第6章 
コミュニティ防災の本質ー地域で防災を考える
おわりに

本書は全6章から構成されています。
近年の自然災害はその数が増え、規模も大きくなっていることが指摘されています。第1章ではその原因を述べ、その裏付けをされています。

続く第2章では、2018年(平成30年)に発生した平成30年7月豪雨(西日本豪雨)がもたらした被害について取り上げ、その後の第3章ではこの豪雨を受けて開催された会議から、行政が住民に求める防災の姿勢が変わったことを記されています。

第4章では、津波の大きな災害リスクを抱えた町がそれを受け入れ、どのような防災対策を講じていったか、その実例が示されました。

最後の第5章と第6章では、住民一人一人が主体性を持って地域と連携する防災対策について総括されています。具体的な市名も挙げて地域コミュニティによる防災対策が何をもたらすのかについても書かれています。

これから私たちに求められる防災への意識はどのようなものか、本書にはそのための指針が示されているように感じました。その要点を見ていきましょう。

社会と国民のコミュニケーション・デザイン

本書が発売されたのは昨年2020年のことです。世相はすっかり新型コロナウイルス一色になってしまった後のことでした。冒頭の「はじめに」のタイトルに「自粛の要請」とある通り、その世相を反映した思いが書かれています。

昨年から日本は、新型コロナの感染拡大に伴って自粛要請ということを度々求められています。
これは他国で見られる強制的なものではなく、あくまでもお願いベースの話になります。

このお願いを聞いて行動を取ることを判断するのは、私たち一人一人になります。
しかし誰かがそれを守らなかった場合、その人が感染を広げてしまうことも考えられます。
だからといって自粛要請以上のことはできない。

片田さんは、どうしたらこの自粛要請を機能させることができるか、という問いに対して
社会(政治家)と国民のコミュニケーションを掲げています。

この自粛と、災害発生時の避難については少し似たような部分があり、どちらも強制はしていません。
災害時において、避難指示が出ているのにも関わらず、避難行動を取らない方が必ずいます。
そのような人たちにいかに「逃げよう」と思ってもらえるか、これもまた社会と国民のコミュニケーションだと述べています。
片田さんはこのことについて「コミュニケーション・デザイン」という言葉を使われています。

ではそのデザインをどのようにすれば良いのか、まずはその前段階として押さえておくべき日本の防災の現状や問題について書かれているのが第1章からの話になります。

激甚化する自然災害

片田さんは、自分自身の暮らしの実感として「気象がおかしい」と感じているそうです。
その一つの事例として、2016年に発生した台風のデータを引いています。

また世界的に見ても豪雨災害が多発しています。
今年2021年を見ても、ドイツや中国で大きな水害が発生していますよね。

この要因として、本書では地球温暖化の進行を挙げています。
温暖化が進むことで海水の温度が高くなります。するとそれだけ蒸発する水の量が増えるということになります。そのため、一度に降る雨の量も増えてくる、という理屈です。

一方で気象庁も特別警報という、本来であれば数十年に一度のこれまでに経験したことがないような状況で出される警報を2013年に新たに作り、運用を開始しています。しかし、実際にはほぼ毎年どこかの地域で特別警報が発表されています。

数十年に一度のこれまでに経験したことがないような状況が毎年どこかで発生している・・・このことも考えると、やはり近年自然災害はその数も被害規模も大きくなっていることが読み取れます。

西日本豪雨で浮き彫りになった防災の課題

このような中において、必要なことは日本の防災のあり方を根本的に見直すことではないか。
そう片田さんは考えていましたが、この問題意識を確信に変えた事例として、2008年に発生した西日本豪雨(平成30年7月豪雨)を示されています。特に岡山県倉敷市真備(まび)地区で大規模な浸水が発生したケースを取り上げています。

真備地区では豪雨に対して避難をした住民は全体の約6割だったということです。
しかし51名の方が亡くなり、その9割が高齢者でした。
そして自宅で亡くなった方の内、ほぼ全員が自宅の1階で亡くなっていたというのです。

なぜこのような事態になってしまったのか?
その要因はいろいろあるかと思いますが、一つはハザードマップが浸透していたか、という問題があります。住民の方にアンケートを取ったところ、約4分の1の方がハザードマップの内容まで理解していると答えています。見たことがある、と答えたのは約半数。

そして、今回の真備地区の水害では、その被害想定がハザードマップの想定された場所とほぼ一致していました。しかし、どうして避難が確実に行われなかったのか?

片田さんは、防災の現場はその時その現場に臨んだ人が何を思うかによって決まる、と述べています。行政や専門家がハザードマップを見ようと呼びかけても、どれくらいの住民の方がそれを見るのか。この問題に対してどのように向かっていけばいいのか。

大事なことは、そのような人の心の在りどころに理解を示し、いざというときに使ってもらえるようコミュニケーションを行うことではないか、と述べています。

ワーキンググループで問題を提起

西日本豪雨を受けて、政府の中央防災会議で「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ(WG)」が開催されました。

この会議には片田さんも参加し、そしてこの会議で先ほどの思いを打ち明けました。この時の発言は、議事録にも残っています。

ここで提言をされたのは大きく次の二つです。

  • 防災は主体が行政で客体が住民ではなく、主客未分、つまり政府と住民が一体となって行うものではないか
  • 避難は、避難していただくものだろうか。行政が対策を積み重ねるだけでは、住民は行政に委ねるようになってしまうのでは

そして次の会議で報告書案が提示されましたが、片田さんはこれを見て驚いたといいます。
というのも、今後の防災対策について、住民主体の防災対策に転換していく必要がある、と明記されていたからです。

平成30年7月豪雨WGの報告書最後に掲載されたメッセージ
平成30年7月豪雨WGの報告書に掲載されたメッセージ
出展 「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)」 33ページ

このWGは、行政サービスから行政サポートへの防災の大転換を示した会議になりました。私もWGの資料を読んでみましたが、議事録が大変詳しく残されており、議論の臨場感が伝わってくるようでした。

ちなみにこの会議では、警戒レベルの導入についての議論も行われました。現在ニュースの気象情報などで「警戒レベル4の避難指示が発令されました」といった情報を見聞きするかと思います。

本WGは防災のこれからのあり方を示すだけではなく、より気象情報を分かりやすく伝える方法も話し合われた会議になりました。警戒レベルについては、ぜひこちらの記事もご覧ください。

「人に寄り添う防災」のあり方とは

共感のコミュニケーション

これからの防災のあり方とはどのようにあるべきか。
大事なことは、私たち一人一人が意識を変え、その地域に災害が起こりそうであれば避難をするという行動を起こせるようになることだと思います。

私もこのサイトを立ち上げたきっかけは、ごあいさつの所にも記しましたが、直接的でないにせよ私が当時住んでいた千葉で台風の威力を経験し、実家が地震被害を受けたことです。これらの出来事によって、災害は他人事ではないという意識を強く持ったからです。

自らの命は自らが守るという意識は、極論を言えば自分自身が命の危険を感じるような経験をすることでしかもたらされないのかも知れません。どれだけ災害の怖さを自分の事として考えることができるのか。それが意識を変えることにつながるのだと思います。

そして避難を呼びかけても避難しようとしない人がいます。
その方々にどのように避難をしてもらうか。

片田さんはそのためのコミュニケーション・デザインとして、相手に共感するコミュニケーションを取ることを書かれています。避難をしない人にはその人なりに理由がある。そのことに理解を示し、その感情に寄り添っていくことが大事だと述べています。

また一方で、災害時には心を穏やかに保とうとする正常性バイアスが働きます。これを乗り越えるための方策として「そっと後押しする」ナッジ理論を紹介しています。

地域コミュニティによる防災

ナッジ理論によって避難を促す策は、災害時において正常性バイアスを乗り越えるアプローチと言えます。しかし自らが主体性を持つためには平時からの地域コミュニティによる防災活動が重要であると本書では指摘しています。

災害に対しては自助、共助、公助の備えが必要とされていますが、コミュニティによる防災活動はみなで助け合う共助に該当します。

片田さんは、そのコミュニティを「皆で災害に立ち向かうための共同体」として捉え、長期的な時間軸で考えることを説かれています。

それはつまり、自分はその地域に住み続けるわけですから、いつかは自身も高齢者になり、災害時に避難に時間を要するであろう側に回ってしまい、自らの問題になってくるからです。そして地域の子供はやがて大人になります。

その流れの中で培われたコミュニティの共助意識が低ければ、将来のコミュニティもそのようなままで変わらないことが想像できます。しかし普段から周りを助け合う環境であれば、それは継承されていく、ということです。

地域から災害犠牲者を出さない防災は、コミュニティのありようである、と述べられており、これからの防災のあり方について指針を示されていると感じました。

まとめです

今回の防災お役立ち情報は、防災を考える一冊として片田敏孝さんの「人に寄り添う防災」を取り上げてみました。

特に東日本大震災以降、人々の防災意識は非常に高くなっているように思います。
当時と比べても災害時の情報提供や避難所などへの案内、備蓄体制などが強化されています。

ネットニュースなどを見ても、日ごろの備えや非常食の特集などを見かける頻度が高くなったように思います。しかし、そのような中でも毎年災害は起こり、命を落とす方がおられます。

本書は、近年変わりつつある災害の脅威に対して、これからの防災はどのようにあるべきか述べられています。特に地域コミュニティ活動については、災害から命を守ることができた事例も取り上げられており、地域で助け合う共助の重要性を感じました。

そしてそれらはすべてタイトルにある「人に寄り添う」ことに集約されるのだと思います。
私も自分の町のハザードマップはどのようになっているか、改めて確認する良い機会にもなりました。地域の防災活動についても調べていきたいと思っています。

先月7月は警戒レベル5の緊急安全確保が何度も発令されるほどの大雨が降り、土石流による災害も発生しました。本書は自分の、そして周りの防災について今一度見直していくための一冊として最適ではないでしょうか。

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