こんにちは、管理人のアカツキです。
今回取り上げる防災お役立ち情報は竜巻についてです。
竜巻現象は、日本では珍しい現象である、そう思われるかも知れません。
しかし、1年あたりの発生件数は23件(2007~2017年、海上竜巻を除く)となっており、決して少なくない数になっています。そして竜巻は年間を通して日本全国場所を問わず発生しており、7~11月にかけて多い傾向があります。特に9月が最多となっております。
そのような観点から、どこにいても竜巻の被害を受ける可能性があると考え、その理解を深めていくことは大事なことだと思います。この記事では竜巻について実際の事例や対策を見ていくことにしましょう。
日本で発生した竜巻の事例
まずは日本でどのような竜巻が発生したのか、少しその例を見ていきましょう。
事例(1) 2006年(平成18年)9月17日 宮崎県延岡市
- 発生時刻 14時07分
- 藤田スケール F2
(竜巻の強さの指標です。後述しています) - 死者 3名
- 負傷者 143名
- 住宅被害 全壊 79棟、半壊 348棟
(他の気象現象による被害数を含む)
(出展 気象庁 過去の主な事例)
この日、九州の南西には強い台風13号(サンサン)があり、接近していました。このため台風に伴う雨雲が発達し、突風被害が発生しました。発生した時刻は14時07分頃とされています。
この竜巻によって多くの建物がダメージを受け、犠牲者も出るなど大きな被害が発生しました。またこの事例では、JR九州の日豊(にっぽう)本線を走る別府駅発宮崎空港行きの特急列車「にちりん9号(5両編成)」が竜巻による突風で先頭3両が脱線し、さらに1両目と2両目が横転するという事故が起こりました。この事故で運転士も含めた7名が軽傷を負っています。
鉄道事故などを調査する運輸調査委員会の報告書によれば、にちりん9号の先頭3両は秒速51m~53mより強い風が吹くと転覆する可能性がありました(転覆限界風速、列車の走行速度や風向きの影響を考えない簡略化した計算式によるもの)。
実際に現場では藤田スケールでF2(秒速50m~69m)の竜巻が発生したと推定されています。このことから、にちりん9号は転覆限界風速の風を受けて脱線したものと考えられています。
事例(2) 2006年(平成18年)11月18日 北海道佐呂間町
こちらも同じ2006年に発生した竜巻被害です。佐呂間町若佐を中心として長さ約1.4km、幅最大約300mの帯状の範囲が被害を受けました。
佐呂間町では国道333号線に新佐呂間トンネルを建設中でしたが、竜巻はその工事事務所を跡形もなく吹き飛ばしました。その風速は4トントラックをもひっくり返す程の強さでした。竜巻によって飛散した物が北に約15km離れた地点まで確認されたという記録もあります。
竜巻の強さはF3(秒速70m~92m)とされ、これは国内の観測史上最大規模となりました。
最新の竜巻(可能性が高い) 2021年(令和3年)9月18日 和歌山県美浜市
ここまで過去の事例を取り上げましたが、直近のケースも取り上げてみます。今回の記事を投稿する10日ほど前の9月18日0時から1時頃、和歌山県の美浜町吉原から御坊(ごぼう)市湯川町丸山の直線距離およそ2kmにかけて突風が発生しました。
この突風で1人が軽いケガをした他、家の屋根瓦などが飛ぶなど51棟に被害が出ました。
その後の和歌山地方気象台による調査の結果、竜巻の可能性が高いと判断されました。
竜巻の風速は秒速45mと推定されており、後に述べますが、竜巻の風の強さを表す改良藤田スケールはJEF1にあたります。この時、西日本は台風14号(チャンスー)が横断していてさらに前線もあるという状況でした。そのため大気の状態が不安定になり、竜巻が発生したものと見られます。
このように竜巻はその発生する時間の長さや被害を及ぼす範囲にはかなりの制限があります。しかし、一度発生するとその威力は台風を超え、場合によってはそこにあるものを全て吹き飛ばしてしまうほどの恐ろしさがあります。
それでは竜巻とはどういったものなのか?それを見ていくことにしましょう。
竜巻とは?
竜巻は積乱雲によって起こる渦巻き
では、竜巻とはどのようなものなのでしょうか。気象庁の予報用語によればこのようなものが竜巻とされています。
竜巻とは
積雲や積乱雲に伴って発生する鉛直軸を持つ激しい渦巻で、漏斗状または柱状の雲を伴うことがある。地上では、収束性で回転性の突風や気圧の急下降が観測され、被害域は帯状・線状となることが多い。
やや難しい記述になっていますが、一言で言うならば雲から垂れ下がる大きな渦巻きということです。
そしてその渦巻きは、夏によく見る入道雲、つまり積乱雲によって起こるということなんですね。
積乱雲が激しい雨や雷をもたらすことは知られていることだと思いますが、それに加えて竜巻も起こす可能性がある、ということを覚えておきましょう。
また、天気予報などで「大気が不安定な状態」ということを度々耳にすることがあると思います。このような時に積乱雲が発生しやすくなります。そのため、天気の急変に気を付ける必要が出てくるんですね。
竜巻の強さはFスケールで表します
竜巻の発生原因は上に述べた通りですが、そうなると次に気になることは竜巻の強さ、つまりどのくらいの風が吹くの?ということになってきます。
ただ、竜巻という現象は台風のように数百kmの範囲で風が吹くようなものではありません。その範囲は長さ数km~数十km、幅が数十m~数百mと狭いものになります。そのため、被害場所にちょうど風速計があって、実際の風速を測定するというのは難しくなってしまいます。
ですが気象庁などの竜巻データを見ると風速が示されています。ではどうやって風速を出しているかというと、その被害の状況からこれくらいの風が吹いただろう、という逆算をして推定しています。そこで被害状況を階級に当てはめ、そこから風速を推定する方法が考案されました。
そしてこの方法を考案されたのが気象学者の藤田哲也さんでした。何と日本人の方なんですね。
この尺度は「藤田スケール(Fスケール)」と呼ばれ、日本やアメリカ、世界各国で広く利用されてきました。
藤田スケールの一覧表
(日本ではF4、F5の竜巻は観測されていません)
強さ | 風速の範囲 | 被害の状況 |
F0 | 秒速17m~32m (約15秒間の平均) |
テレビのアンテナなどの弱い構造物が倒れる。小枝が折れ、根の 浅い木が傾くことがある。非住家が壊れるかもしれない。 |
F1 | 秒速33m~49m (約10秒間の平均) |
屋根瓦が飛び、ガラス窓が割れる。ビニールハウスの被害甚大。 根の弱い木は倒れ、強い木は幹が折れたりする。走っている自動 車が横風を受けると、道から吹き落される。 |
F2 | 秒速50m~69m (約7秒間の平均) |
住家の屋根がはぎとられ、弱い非住家は倒壊する。大木が倒れた り、ねじ切られる。自動車が道から吹き飛ばされ、汽車が脱線す ることがある。 |
F3 | 秒速70m~92m (約5秒間の平均) |
壁が押し倒され住家が倒壊する。非住家はバラバラになって飛散 し、鉄骨づくりでもつぶれる。汽車は転覆し、自動車はもち上げ られて飛ばされる。森林の大木でも、大半折れるか倒れるかし、 引き抜かれることもある。 |
F4 | 秒速93m~116m (約4秒間の平均) |
住家がバラバラになって辺りに飛散し、弱い非住家は跡形なく吹 き飛ばされてしまう。鉄骨づくりでもペシャンコ。列車が吹き飛 ばされ、自動車は何メートルも空中飛行する。1トン以上ある物体 が降ってきて、危険この上もない。 |
F5 | 秒速117m~142m (約3秒間の平均) |
住家は跡形もなく吹き飛ばされるし、立木の皮がはぎとられてし まったりする。自動車、列車などがもち上げられて飛行士、とん でもないところまで飛ばされる。数トンもある物体がどこからと もなく降ってくる。 |
しかし近年、Fスケールの見直しが行われ、2016年(平成28年)4月から「日本版改良藤田スケール(JEFスケール)」の運用が開始されています。
日本版改良藤田スケールの一覧表
強さ | 風速の範囲 (3秒平均) |
被害の状況 |
JEF0 | 秒速25m~38m | ・木造の住宅において、目視でわかる程度の被害、飛散物による窓 ガラスの損壊が発生する。比較的狭い範囲の屋根ふき材が浮き上がっ たり、はく離する。 ・園芸施設において、被覆材(ビニルなど)がはく離する。パイプ ハウスの鋼管が変形したり、倒壊する。 ・物置が移動したり、横転する。 ・自動販売機が横転する。 ・コンクリートブロック塀(鉄筋なし)の一部が損壊したり、大部分 が倒壊する。 ・樹木の枝(直径2cm~8cm)が折れたり、広葉樹(腐朽有り)の幹 が折損する。 |
JEF1 | 秒速39m~52m | ・木造の住宅において、比較的広い範囲の屋根ふき材が浮き上がった り、はく離する。屋根の軒先又は野地板が破損したり、飛散する。 ・園芸施設において、多くの地域でプラスチックハウスの構造部材が 変形したり、倒壊する。 ・軽自動車や普通自動車(コンパクトカー)が横転する。 ・通常走行中の鉄道車両が転覆する。 ・地上広告板の柱が傾斜したり、変形する。 ・道路交通標識の支柱が傾倒したり、倒壊する。 ・コンクリートブロック塀(鉄筋あり)が損壊したり、倒壊する。 ・樹木が根返りしたり、針葉樹の幹が折損する。 |
JEF2 | 秒速53m~66m | ・木造の住宅において、上部構造の変形に伴い壁が損傷(ゆがみ、 ひび割れ等)する。また、小屋組の構成部材が損壊したり、飛散する。 ・鉄骨造倉庫において、屋根ふき材が浮き上がったり、飛散する。 ・普通自動車(ワンボックス)や大型自動車が横転する。 ・鉄筋コンクリート製の電柱が折損する。 ・カーポートの骨組が傾斜したり、倒壊する。 ・コンクリートブロック塀(控壁のあるもの)の大部分が倒壊する。 ・広葉樹の幹が折損する。 ・墓石の棹石が転倒したり、ずれたりする。 |
JEF3 | 秒速67m~80m | ・木造の住宅において、上部構造が著しく変形したり、倒壊する。 ・鉄骨系プレハブ住宅において、屋根の軒先又は野地板が破損したり 飛散する、もしくは外壁材が変形したり、浮き上がる。 ・鉄筋コンクリート造の集合住宅において、風圧によってベランダ等 の手すりが比較的広い範囲で変形する。 ・工場や倉庫の大規模な庇(ひさし)において、比較的狭い範囲で屋根 ふき材がはく離したり、脱落する。 ・鉄骨造倉庫において、外壁材が浮き上がったり、飛散する。 ・アスファルトがはく離・飛散する。 |
JEF4 | 秒速81m~94m | ・工場や倉庫の大規模な庇(ひさし)において、比較的広い範囲で屋根 ふき材がはく離したり、脱落する。 |
JEF5 | 秒速95m~ | ・鉄骨系プレハブ住宅や鉄骨造の倉庫において、上部構造が著しく変 形したり、倒壊する。 ・鉄筋コンクリート造の集合住宅において、風圧によってベランダ等 の手すりが著しく変形したり、脱落する。 |
上のFスケールとJEFスケールの表を見ると、後者はより被害の対象になっている物が細かくなっていることに気付かれると思います。
またJEFスケールでは、スケールを決める時に「こんな物が」という被害を受けた物と、その物が「どうなった」という被害を受けた度合いに分けて推定される風速を算出します。そしてその風速が対応するJFEスケールを決定する手順になっています。その対象となる「物」は全30種類が選ばれています。
先ほどの事例はJEFスケールではなく、Fスケールだということにも注意してください。
竜巻はどこで起こるの?
日本全国どこでも起こる可能性があります
ここまで竜巻の事例などを見てきました。その被害範囲は広くはありませんが、一たび発生すれば、大変大きな被害をもたらすであろうことが見えてきます。
そうしますと、竜巻はどういった所で発生するのか?ということになります。
これについては気象庁が詳細なデータベースを作成しており「竜巻ポータルサイト」で公開しています。
上の画像は、気象庁が作成した竜巻発生場所を示した分布図です。赤丸がそのポイントに対応しています。これを見ると、竜巻の発生場所は全国にくまなく分布している、と言うことができるでしょう。
またどちらかというと内陸部ではなく、沿岸部で多めに発生しているように見えます。
いずれにせよ、日本全国どの場所においても竜巻が発生する可能性があるということが大事です。
9月は特に竜巻が多い
竜巻ポータルサイトでは、竜巻がどのような季節、時間帯に発生したかといった情報も調べられています。ここでは月別の発生件数を取り上げてみました。
このグラフによれば、7月~11月で多く竜巻が発生しており、9月が最多であることが読み取れます。竜巻を起こしやすい気象条件の一つが台風になりますが、その他にも寒気や暖気が流れ込むことによって大気が不安定になることも大きな要因になります。
このシーズンに竜巻が多いことは、台風などが多いことからも言えるかと思います。
しかし、グラフはどの季節においても竜巻が発生し得ることを示しています。
たとえば日本の冬は気圧配置が西高東低になることが知られています。
この時、日本海側ではシベリア方面から吹き付ける風が海上の水蒸気を吸い上げ、積乱雲を発生するようになります。積乱雲の発達が竜巻の発生原因になりますから、冬でも竜巻が発生する可能性があるということです。ちなみに北陸は冬に雷が多いと言われますが、これも上の理由によるものなんですね。
竜巻から身を守るには
まずはその兆しを見きわめよう
竜巻は日本のどこでも、季節なども問わず発生することを見てきました。
そうなると次に知りたいのは、どんな時に竜巻が発生するのか?ということだと思います。
もし何かの兆候があれば、私たちは行動を取ることができます。
そのような兆候として次のようなことが挙げられます。
このような状況では、竜巻をもたらす積乱雲が近づいている可能性があります。
さらに竜巻が発生し、近づいてきた時には次のような変化があります。
これらの変化を見逃さないことが大切です。
取るべき行動は?
先ほどのような兆しを感じたら、まずは屋内に逃げるのが先決です。
そして雨戸や窓、カーテンなどを閉めること。竜巻の風速は並みの台風を超えてきます。また辺り一帯の物を飛ばしながら動くので、風のエネルギーを受けた物が窓に衝突し、ガラスが割れ、さらにその破片がおそってくることが考えられます。
窓が開けっぱなしだと竜巻に巻き上げられた物がお構いなしに入ってきますから、まずは閉める。閉めた上で窓から離れた部屋に行くことが大事です。
気象庁のリーフレット「竜巻から身を守ろう!」では、竜巻が接近した時に取るべき行動として次のようなことを呼びかけています。
気象庁の情報を入手しよう
3つ+1つの情報に注意
もう一つ大事なことは、情報を集めることです。
気象庁が発表している竜巻に関する気象情報は全部で3つあり、それぞれ発表されるタイミングが異なります。時系列で整理すると次のようになります。
- 半日~1日前(1) 予告的な気象情報
- 数時間前(2) 雷注意報
- 0~1時間前(3) 竜巻注意情報
- 雲の様子を確認
- 竜巻発生確度ナウキャストをチェック
まず(1)予告的な気象情報は、「雷及び突風に関する〇〇県気象情報」といったタイトルで突風が発生すると予想される半日~1日前に発表されます。実際に気象庁のサイトで確認してみましょう。情報を確認するための手順は次の3ステップです。
地域を選んでいった後に出てくるのが次の気象情報一覧です。今回は福島県を例に挙げてみました(2021年(令和3年)9月23日)。
まず1枚目の画像を見ると「全般気象情報」「東北地方の地方気象情報」「福島県の府県気象情報」と3つの情報枠があることが分かります。気象庁では、情報を発表する地域を分けていて、全国を対象とするなら全般、地方予報区(全国を11に分けた地域)であれば地方、そして都道府県を対象にするなら府県気象情報として発表しています。
この日は上空に寒気を伴う低気圧が北日本を通過したため、大気が不安定な状態になりました。そのため2枚目、3枚目のように注意を呼びかける情報が発表されたわけなんですね。
(2)雷注意報は、積乱雲の発生で雷や突風が起こる数時間前に発表される注意報です。注意報には備考・関連する現象という項目がありますが、もし竜巻などが予想される場合にはこの部分に「竜巻」や「ひょう」などの文言が追加されるようになっています。
そして(3)竜巻注意情報は、今まさに竜巻が発生しやすい気象状況になっていることを伝える情報になります。竜巻注意情報は発表された場合、次に見ていく「竜巻発生確度ナウキャスト」でくわしいエリアを確認したり、実際に空の様子を確認したりして先ほどお示しした身を守る行動を取ることになります。
ちなみに竜巻注意情報には情報が有効な時間が設定されており、約1時間となっています。これは竜巻などの激しい突風が発生しやすい状況は長時間続かないことが多いためです。
もしそのような状況が有効な時間を過ぎても続くと予測された場合は、再度竜巻注意情報が発表されます。次の画像の3枚目は、島根県に発表された竜巻注意情報ですが、第4号であることに注意してみてください。
竜巻発生確度ナウキャストで確度1と2のエリアを確認
竜巻注意情報が出された場合、その地域では竜巻の発生に注意する必要があります。ただ、情報の発表単位は「一次細分区域」という区分で発表されます。通常の天気予報などですと、全国を市町村単位まで細かく分けて〇〇市に雷注意報が発表されたりしますよね?
これが竜巻注意情報では、たとえば〇〇県沿岸部だとか東部、中部といった少し大きな区分で発表されるということです。
竜巻はその被害をもたらす範囲が、長さ数km~数十km、幅数十m~数百mと言われます。そうなりますと県全体の大きさから考えてその情報発表範囲が大きすぎるようにも思えます。
これを補足するのが「竜巻発生確度ナウキャスト」です。
竜巻などの激しい突風が予想される場合、竜巻が現在発生、または今にも発生する可能性の程度を「発生確度」という用語で地図にそのエリアが表示されるようになっています。発生確度には2つあり、それぞれ発生確度1と発生確度2があります。
このうち、発生確度2が現れた地域に竜巻注意情報が発表されるようになっています。
この情報では平常時でも10分ごと、1時間先までの移動予測が提供されます。地域を10km四方の格子に分けて、確度1と2の情報が示されるようになっています。
ただ、注意したいのはこれらの情報が出たからといって必ずしも竜巻が発生するわけではないということです。突風の現象は最新技術でも予測が難しいのが実状です。そのため予測の精度も決して高くはありません。気象庁ではその予測精度の評価について次のような表から得られる適中率と捕捉率を示しています。
適中率とは、全予報のうち、突風が実際に発生した、つまり予報が適中した割合で
$$適中率=\frac{a}{a+c}$$
一方、捕捉率は発生した突風をどれだけ予報できたかを示す割合で
$$捕捉率=\frac{a}{a+b}$$
で表されます。
気象庁によれば、発生確度2の適中率は7%~14%となっており、発生確度1の1%~7%程度と比べて高めになっています。ただそれでもその値は低く、確度2は出したけれど突風が発生しなかったという空振りはあると考えなければなりません。
また捕捉率は50%~70%程度と低めですので、確度2が出ていないときに竜巻などの突風が発生していたという見逃しが多くなります。確度1はそれを補う意味合いもあり、捕捉率が80%程度と高めになっている一方で適中率が低めになっています。
数字を見るとあまり当てにできないようにも思えますが、この情報が出ている地域は突風が発生しやすい気象状況にある、ということは違いありません。予告的な気象情報も含めて総合的に情報を集め、また実際に空の様子を確認することが大事なのだと思います。
竜巻の発生を探る気象ドップラーレーダー
ところで、レーダーって何?
最後に、竜巻発生確度ナウキャストや竜巻注意情報の発表は、気象庁がどのようにして行っているのかを少し述べたいと思います。
これらの予測方法には(1)数値予報と(2)気象レーダーによる観測があり、それらを総合的に判断して情報を発表しています。ここではその一例として(2)気象レーダーによる観測について少し見てみましょう。
まず「レーダー」についてです。このレーダーというのは英語の頭文字を読んだものなんですね。
レーダー(RADAR)
Radio Detection And Ranging(電波による検出と測距)
*測距(そっきょ)・・・目標までの距離を測ることです
Radioというのはラジオという意味もありますが、無線通信という意味もあります。線が必要としない通信ですから、電波を使うということなんですね。
つまり、電波を目標に飛ばして目標がその電波を反射したものをキャッチすることで、目標を検知してその位置を測定することができるもの、それがレーダーになります。レーダーという言葉自体にレーダーの意味が含まれているんですね。
余談ですが、アップル社のiPad ProやiPhone12 Pro、iPhone13 ProにはLiDAR(ライダー)スキャナというセンサーが搭載されています。レーダーとライダー、何だか似ていますよね。LiDARのLiは光、つまりLightという意味なんです。ですのでLiDARは光による検出と測距、ということになります。こちらは光(赤外線)を発射して目標までの位置を測定しています。
ドップラー効果を利用して竜巻の可能性を調べる
竜巻を引き起こす積乱雲の中にも、図抜けて大きく、寿命も長いものができることがあります。そのような積乱雲は「スーパーセル(巨大積乱雲)」と呼ばれます。そのため、発生する竜巻もより強くなります。
また、スーパーセルの特徴として「メソサイクロン」と呼ばれる直径が数kmもの渦を持つことが挙げられます。このようなメソサイクロンに対して気象レーダーを使うことで、竜巻が発生する可能性を判断することができます。
そのために使用するのが「気象ドップラーレーダー」です。ドップラー・・・どこかで聞いたような懐かしい言葉だと思います。おそらく高校の物理でドップラー効果というものをそこはかとなく習われた方もおられるかと思います。
ドップラー効果というのは、よく言われるのが救急車やパトカーのサイレン音ですね。近づくとサイレン音が高くなり、遠ざかると低くなって聞こえる現象。あれがドップラー効果です。
このドップラー効果は電波を使っても起こります。電波をメソサイクロンに当て、反射してきた電波との周波数差をなんやかんや調べることで、こちらに近づいてくる風と遠ざかっていく風の速度を知ることができます。ちなみにこの仕組みはスピードガンにも使われています。野球でピッチャーが投げるボールの球速などは、ドップラー効果を利用して測っているんですね。
気象庁の冊子「竜巻などの激しい突風に関する気象情報の利活用について」には、技術解説の項目があり、気象レーダーについての説明が書かれています。\(\,\,\)
この中で「3.メソサイクロンの検出(気象ドップラーレーダー)」の(1)風を観測する原理によると、送信する電波の周波数を \(\,f_t\,\)(波長を\(\,\lambda\,\))としたとき、目標の移動速度\(\,v\,\)はドップラー周波数を\(\,f_d\,\)として
$$v=-\lambda\times\frac{f_d}{2} \tag{1}$$
で与えています。また\(\,v\,\)をドップラー速度と呼んでいます。
本当にそうなるのか、実際に計算してみました。まず、模式図は次の通りです。
図のように、アンテナ方向に近づくか、あるいは遠ざかってもくもくと湧いている積乱雲(の中の降水粒子)に電波を発射します。積乱雲さんはその電波を反射してアンテナに返します。アンテナはその電波を受け取る、という形です。
ですのでやることは、その受け取った電波の周波数を求めることです。ここから入射周波数との差を求めます。ドップラー周波数はドップラー効果によって起こった周波数の変化分、と考えられますのでこの差分がドップラー周波数に相当するはずです。これを計算できればドップラー速度が見えてきそうな気がしますのでとりあえず計算してみます。
まずはアンテナが受け取った電波の周波数を求めます。これは高校物理で習った「反射板がある場合のドップラー効果」と同じように考えられます。つまり積乱雲さんを反射板と見立てて①積乱雲が感じる入射電波の周波数を計算し、②アンテナが感じる積乱雲が反射した電波の周波数を求める、と2回ドップラー効果を考えた計算を行えば良さそうです。そこで模式図に示した記号を一度整理します。
\(f_t\,\colon\,\)アンテナが発射した電波の周波数
\(\lambda\,\colon\,\) アンテナが発射した電波の波長
\(c\,\colon\,\)電波の速度(光速)
\(v\,\colon\,\)積乱雲の移動速度
\(f’\,\colon\,\)積乱雲が感じる電波の周波数
\(f_r\,\colon\,\)アンテナが積乱雲から受信した電波の周波数
では実際に周波数を求めてみましょう!ここでは雲が遠ざかっている場合を見てみます。
①積乱雲が感じる周波数・・・電波の発射源は動かず、雲は遠ざかっているので
$$f’=f_t\frac{c-v}{c}$$
\(\,f’\,\)がわかりましたので、②に進みます。
②アンテナが感じる反射波の周波数・・・雲は遠ざかり、アンテナは静止しているので
$$f_r=f’\frac{c}{c+v}=f_t\frac{c-v}{c}\cdot\frac{c}{c+v}=f_t\frac{c-v}{c+v}$$
戻ってきた電波の周波数がわかりました。これで差分が計算できそうです。
$$f_r-f_t=f_t\frac{c-v}{c+v}-f_t=f_t\left(\frac{(c-v)-(c+v)}{c+v}\right)=-f_t\frac{2v}{c+v}$$
\(c\gg v\,\)ですので、\(c+v\approx c\,\)となり
$$f_r-f_t=-f_t\frac{2v}{c}$$
が得られました。ちなみに、雲が近づいた場合には
$$f_r-f_t=f_t\frac{2v}{c}$$
になります。両者の違いは符号のみです。
ドップラー周波数は符号をのぞいた純粋な変化分なので
$$f_d=f_t\frac{2v}{c} \tag{2}$$
とおけます。すると
$$f_r=\begin{cases}f_t+f_d & (雲が近づく場合) \\ f_t-f_d &(雲が遠ざかる場合)\end{cases}$$
のようにまとめることができます。さらに発射した電波の周波数と波長には
$$c=f_t\lambda$$
の関係がありますので、\((2)\)式から
$$f_d=f_t\frac{2v}{f_t\cdot \lambda}=\frac{2v}{\lambda}$$
これを\(\,v\,\)について解けば
$$v=\lambda\times\frac{f_d}{2}$$
となります。(1)式と比べるとマイナスが付いていませんが、(1)式は雲が近づいてくる方向をマイナスの速度で表現したい場合に適用するのだと思います。データの使い方で符号の付け方も違ってくるのでしょう。ちなみに、この後ご紹介するドップラーレーダーの観測例では雲が近づいてくる方向の速度がマイナスになっています。
ある範囲で近づく風と遠ざかる風が両方ある・・・これってその場所に渦ができていると考えることはできないでしょうか。
もしドップラーレーダーで積乱雲を観測して、先のパターンが検出できれば、そこにはメソサイクロンがある、と判定することができます。もちろんスーパーセルが必ず竜巻を発生させるわけでもありませんし、スーパーセルがなくとも竜巻が発生することがあります。しかし、このような観測によって気象情報が発表されている、ということはぜひ知っておきたいことだと思います。
2012年(平成24年)5月6日、東海地方から東北地方にかけて大気の状態が不安定になり、福島県や栃木県、そして茨城県で計4つの竜巻が発生しました。
特に茨城県つくば市と常総市で発生した竜巻は、FスケールでF3(秒速70m~92m)と推定され、長さ約17km、幅約500mに渡って被害が発生しました。
この時の様子は多くの方が動画を撮影しており、Youtubeなどで見ることができます。
この竜巻を気象研究所が解析したところ、スーパーセルによる竜巻ということが推定されています。また、ドップラーレーダーの分析によって渦パターンが検出されており、被害が起こった場所とよく対応していることが判明しました。
まとめです
今回のお役立ち防災情報は「竜巻」を取り上げました。
竜巻現象は一度起こるとその被害は大きなものになってしまいます。
その兆しは実際に雲を観察することと、情報を集めることでつかむことができます。
また本記事では竜巻にフォーカスを当てましたが、突風現象には「ダウンバースト」や「ガストフロント」というものもあります。先の竜巻注意情報や竜巻発生確度ナウキャストには、それらに対する注意が含まれていることにも留意してください。
天気予報の「大気が不安定な状態」という言葉に注意を注ぎ、さらなる防災対策をしていきましょう!