2024/4/15 地域に密着「ローカル防災アプリ」で災害に備えよう を更新しました

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絵で伝える言葉「ピクトグラム(案内用図記号)」

ピクトグラム(案内用図記号) 防災豆知識
ピクトグラム(案内用図記号)

こんにちは!管理人のアカツキです。
突然ですがクイズです!あなたはこれが何を意味するのか分かりますか?

答えは「エスカレーター」です。おそらく見た瞬間に思い浮かばれたかと察します。

実際にこの絵柄は街中でよく見かけますよね。
このような絵柄を「ピクトグラム」と言います。

今回はこのピクトグラムが私たちの日常生活、そして災害時にどのように使われているのかを
取り上げてみたいと思います。

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ピクトグラム(案内用図記号)とは

情報を絵柄で伝える

ピクトグラム(pictogram)とは、目で見て直感的にそれが何なのか理解できる絵柄を言います。
つまり、絵文字なんですね。

このピクトグラムのスゴい所は、先ほども述べましたが直感的に理解できる所です。
そして、それは日本人であろうと外国の人であろうと全く同じという所なんです。

これは「言葉の壁」を超えてコミュニケーションができることを示しています。

例として歌手のジャネットジャクソンさんのツイートをご紹介します。

ウガンダのマサカという県都の団体であるMasakakidsAfricanaの動画にコメントしているツイートです。絵文字で子供たちの可愛らしさとキレのあるダンスにコメントしていますね。

絵文字は「ハグ」を意味しています。これだけで彼女の思いが私たちにも伝わりますよね。

案内用に大活躍

人から人へ情報を伝える手段は様々です。
その多くは耳から、つまり言葉によると思います。

ですがそこには「言語」の違いが存在します。
日本語でも英語でも言っていることは同じなのに、言語が違うから分からない。
ものすごくモヤモヤしますよね。

しかし人間は目を通しても情報を得ることができます。
自然の風景や人工物・・・これらは言語が違っても見れば理解できますよね?
それらを描いた絵もまた然りです。

ならば駅や空港、ショッピングモールなどの施設案内に絵(ピクトグラム)を使えばいいのでは?
そのような発想から生まれたのが案内用図記号(Public Information Symbols)です。

そして今や私たちの生活に溶け込んでいるピクトグラム(案内用図記号)。
これっていつ頃から出てきたものなんでしょうか?

そのきっかけは、何と東京オリンピックにありました。

きっかけは1964年の東京オリンピック

1964年10月10日から10月24日まで開催された東京オリンピック
アジア地域で初めて行われたこのオリンピックには、93か国が参加しました。

これだけの数の国の人たちが東京にやって来たわけです。
ゲームを観戦しようとする人たちも合わせると、その数は万人規模でしょう。

事実、オリンピック期間中の選手と観客を合わせた訪日外国人数は5万人と言われています。

必然的に施設の案内の問題が出てきたのは想像に難くないところです。
たとえば「トイレ」を案内する場合を思い浮かべてみましょう。

これを文字で案内するならば、日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、ロシア語・・・
それぞれの国の言語に合わせて示す必要があります。
そんなごちゃごちゃした看板は、かえって分かりにくいですよね。

そこで「ピクトグラム(案内用図記号)」の登場です。
絵ならば言語の問題を乗り越えられます。

ピクトグラム有と無
「トイレ」のピクトグラム案内(左)と文字案内(右)
左はすぐに「トイレ」がある!と分かりますよね

案内用図記号を作成するため、オリンピック組織委員会でデザイナーの勝見勝さんを中心としたデザインチームが組織されました。
そして施設を表すピクトグラム(施設シンボル)や競技シンボルが作られていきました。

トイレは今でこそあのマークが当たり前のように使われていますが、当時は画期的なことだったんですね。

余談ですが、最終的にデザインが完成した後、勝見さんがチームに呼びかけて著作権を放棄しました。
このエピソードは今も語り継がれています。

以下は東京オリンピックデザイナーの一人、村越愛策さんのインタビュー記事です。
著作権放棄に関するお話がストーリー3で少し登場しています。

TOKYO2020に向けて改正

そして時は流れ、2020年。本来ならば再び東京オリンピックが行われる予定でした。
しかしご存じのように、新型コロナウイルスの影響で開催が延期となってしまいました。

ただ、そのための準備はピクトグラムについても着々と進められておりました。
日本は外国人観光客を誘致するためのインバウンド政策により、ここ数年は年間3千万人ほどの外国人が日本を訪れています。
オリンピック開催時には、1964年の時とは比較にならない人が東京に押し寄せることになるでしょう。

それを見越して案内用図記号の見直しや追加が行われました。
一時期、新しい温泉マークが話題になったことを覚えておられるでしょうか?
これも案内用図記号の見直しによるものだったんですね。

2017年7月20日、こうした議論を経て新たな図記号が規格化されました。

日本産業規格(JIS)で決められています

JISって、なに?

さて、先ほどピクトグラムが「規格化」されたと述べました。
これはみんなが統一して利用できるようにデザインや意味が決められた、ということです。
日本ではJIS(Japan Industrial Standard、日本産業規格)によって規定されています。

・2019年(令和元年7月1日)から日本「工業」規格は日本「産業」規格になりました
 JISは「工業標準化法」という法律に基づいて決められます。
 そのため、JIS規格は日本工業規格と呼ばれていました。
 
 現在は法律が改正され、工業標準化法が産業標準化法に名称変更されました。
 このことにより、日本工業規格も日本産業規格に変わりました。

 なお、英語の名称(Japan Industrial Standard)はそのまま使用されます。


注意したいのは「規格」とは言っても絶対にこれを使いなさい!という強制力はありません
使うのは自由です。

しかし、標準的なデザインが提示されているということは、全国どこに行っても同じ情報が得られるということですから、できるだけそれを活かして使っていきたいところですよね。

規格番号は部門記号と通し番号で構成

なるほど、JIS規格というものがあることは分かりました。
では、決められた規格はどのように記されているのでしょうか?
その見方をご紹介します。

JIS規格の例(JIS Q27001)
JIS規格の例(JIS Q27001)

このような感じで決められています。
どうやらJISの後にアルファベットと数字を組み合わせて、その規格を表しているようですね。

まずJISでは、その規格がどの産業分類に入るかを指定します。
例えば自動車ならD、鉄鋼ならG、化学ならKというように対応付けされています。
アルファベット一文字でジャンルが指定されるんですね。これを部門記号と言います。

その後に4桁あるいは5桁分類番号を与えることでJIS規格は表されています。

画像の例ですと、管理システムについての規格ということになります。
ちなみにこれは情報セキュリティマネジメントシステムに関する規格です。

また、国際的な規格もあります。
こちらはISO(International Standard Organization、国際標準化機構)規格と呼ばれます。

案内用図記号はJIS Z8210で規定されています

JIS規格の見方が分かりました!
これで今知りたい案内用図記号に進むことができますね。

案内用図記号は「JIS Z8210」で規定されています。
部門記号が「その他」のZ、分類番号が8210となっております。

なお、JISの閲覧や検索は、日本産業標準調査会のWebサイトから行うことができます。
別途利用者登録が必要な点にご注意ください。
JIS Z8210のみであれば、国土交通省のサイトでも閲覧が可能です。

2002年の日韓W杯に備えたJIS化でした

今までの文脈から、1964年の東京オリンピックですでにJIS Z8210が規定されていた、と
思われる方もおられるかも知れません。
実際にその時作られた施設シンボルは、広く世界に広まることになりましたから。

しかし、調べていくとこの規格が制定されたのは2002年の3月なんです。
2000年代に入ってからだったんですね。

そしてこの年は、サッカーの日韓W杯が開催された年でした。
つまり、案内用図記号のJIS化は日韓W杯を契機として行われたということになります。

この時、案内用図記号の国際規格としてISO 7001がありました。
ですがここで規定されていた図記号は57種類でした。

これだけでは来日する観客の移動案内などの対策が難しい・・・。
それでJIS化への動きが始まったんですね。

結果として、110種類の案内用図記号がJIS Z8210として規格化されました

最新の規格はJIS Z8210:2020です

JIS Z8210はその後も改正が行われていきました。
実は今年2020年5月にも新たに図記号が追加されています。

規格が改正されると、規格番号の後ろに:(コロン)を付けて改正した西暦を記します。
ですので、案内用図記号の最新規格はJIS Z8210:2020になります。
実際に数えたところ、167種類が規定されていました。

近年の改正履歴は次の通りです。

表 JIS Z8210(案内用図記号)の改正履歴(2017年以降)

西暦和暦月日内容背景プレスリリース(経済産業省)
2017平成29年7月20日・7種類の図記号を変更
・15種類の新しい図記号を追加
ヘルプマークも追加
・2020年の東京オリ・パラリンピック対策
・外国人観光客に分かりやすい記号を提供
日本工業規格(JIS)を制定・改正しました(平成29年7月分)
2019平成31年2月20日・3種類の案内用図記号を追加
・洋風便器
・和風便器
・温水洗浄便座
・2020年の東京オリ・パラリンピック対策の一環
・訪日外国人は外出先で洋風、温水洗浄便座のトイレを選択する傾向
日本工業規格(JIS)を制定・改正しました(平成31年2月分)
2019令和元年7月22日・2種類の案内用図記号を追加
・AED(自動体外式除細動器)
・加熱式たばこ専用喫煙室
・AED:公共施設などで設置が進む一方、統一的なピクトグラムが無かった
・加熱たばこ:平成30年7月25日公布の「健康増進法の一部を改正する法律」で
令和2年4月1日以降喫煙室への標識掲示義務が発生したため
日本産業規格(JIS)を制定・改正しました(2019年7月分)
2020令和2年5月20日・9種類の案内用図記号を追加
・男女共用お手洗
・授乳室
・おむつ交換台
・カームダウン・クールダウンなど
・トイレ設備の機能分散化、高齢社会、ジェンダーフリーへの対応など
・カームダウン・クールダウンは、発達障害などの人がパニックを落ち着かせる
あるいは予防するための部屋のことです
(参考:公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団)
日本産業規格(JIS)を制定・改正しました(2020年5月分)

災害用のピクトグラムもJIS Z8210です

申し訳ありません!かなり前置きが長くなってしまいました・・・。
このピクトグラムが防災の分野でどのように使われているのか?
それを取り上げるのが当記事の目的です。

実は、災害に対しても同じJIS Z8210で規定されています
直接的に示されているのは、災害種別一般図記号注意図記号です。

そしてこれらの図記号を使う場合は、同じくJIS Z8210の避難場所の図記号(安全図記号)とともに表示する、とされています。

避難場所図記号(JIS Z8201)
安全図記号(避難場所のみ示しました)
出展:国土交通省ー案内用図記号(JIS Z8210)(令和元年7月20日)[5]安全より

JIS Z9098で避難誘導のあり方を決めています

災害と避難場所の図記号が出そろいましたね。
そして話は、これらをどのように防災に利用していくのか?という所に移っていきます。

そのための方法が同じくJISに規定されております。
それがJIS Z9098(災害種別避難誘導標識システム)です。
具体的には次のように

  1. 災害の危険性がある場所に設置する、注意図記号を使った標識
  2. 災害に関する情報について、人目が多い場所に設置する避難情報標識
  3. 災害が発生した場合に、避難場所まで誘導する避難誘導標識
  4. その建物や場所が避難場所であることを示す避難場所標識

について、その配置や表示の仕方などを設定しています。
またこの避難場所については、どの災害の種類に対応した避難場所か、ということも決めています。

たとえば、津波に対応しているなら津波のピクトグラムに”〇”が付けられています。
対応していない災害には”×”が付けられています。
ここでも文字情報ばかりでなく、ピクトグラムが効果的に使われているんですね。

以下に避難情報、誘導、場所標識の一例を示します。
きっとあなたもご覧になったことがあるのではないでしょうか。

水害の避難情報標識の一例
水害の避難情報標識の一例
自分の現在地が赤色で表示される決まりになっています
出展:内閣府「「災害種別避難誘導標識システム」JIS Z9098防災標識ガイドブック」より
避難誘導標識の一例
避難誘導標識の一例
どこに逃げるのかが重要ですから、必ず矢印が目立つようになっています
出展:内閣府「「災害種別避難誘導標識システム」JIS Z9098防災標識ガイドブック」より
避難場所標識の一例
避難場所標識の一例
対応する災害に〇×が付いています
出展:内閣府「「災害種別避難誘導標識システム」JIS Z9098防災標識ガイドブック」より

非常口のピクトグラムは消防法で決められています

ところで、こちらのピクトグラムはどこで規定されているのでしょうか?

この非常口のピクトグラムは、見かけないことが無いくらい普及していますよね。
実はJIS Z8210では規定されておらず、参考として記されています

こちらを規定しているのは消防庁なんです。
消防庁告示「誘導灯及び誘導標識の基準(PDFファイルです)」で定められております。
このピクトグラムが決められた背景も、何かの機会に取り上げてみたいと思います。

まとめです

今回はピクトグラム(案内用図記号)についてご紹介しました。
訪日外国人が増加する中で、言語によらず、視覚で情報を伝えられるピクトグラムの
重要性は増しています。そして災害に対しても速やかに避難を促すことが期待されています。

現在は駅や商業施設などでこれらを見ない日はないと思います。
しかし、もしもの時にはそれがあなたの未来をつなぐ図記号になるかも知れません。

あらためてピクトグラム一枚一枚に込められた思いを巡らせ、防災レベルを上げていきましょう!


・記事作成にあたり、以下の論文を参考にさせて頂きました。ありがとうございます。
言語の壁を超える“案内用図記号” ~2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて~
黒田優香、「情報の科学と技術」、第70巻、1号、pp.2-6 (PDFファイル、ダウンロードフリーです)

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