こんにちは!管理人のアカツキです。
今回の防災情報では「津波フラッグ」を取り上げます。
昨年、2020年(令和2年)6月に始まったばかりの新しい取り組みです。
津波フラッグとは
赤と白の格子が目印です
津波注意報・警報(以下、津波警報等とします)が発令された時に、海水浴場等の海岸にいる人に伝えるための旗を指します。
「赤と白の格子模様」がデザインされています。
これは後に述べる国際信号旗(こくさいしんごうき)のU旗(ゆーき)と呼ばれる旗と同一デザインになっています。
なおU旗は「あなたは危険に向かっている」という意味になり、その場所からの緊急避難を伝える手段になります。
津波警報等の発表は地震が起きてから約3分
海岸を訪れる人は様々です。散歩に来ている人、釣り人、マリンスポーツが目的の人。
そして夏は海水浴シーズンになり、多くの人が海水浴場にやって来ます。
もしも地震が発生して津波警報等が発令された時、海水浴客たち等にどのように情報を伝えるか。
津波フラッグは情報を「視覚」で伝えるための情報伝達手段になります。
津波の恐ろしさは、幅広く認知されていると思います。
海底で大きく岩盤(プレート)が動き、その領域の海水が全て持ち上げられますから通常の波とはちがって、水の壁が押し寄せてくることになります。
その高さがたとえ30cm程度でも人は耐えられず流されてしまう可能性が大いにあります。
ですので、津波が来る前に逃げる、これしか助かる手段はありません。
そして、もしあなたが遊泳中の時に地震が起きて津波がやってくるとしたら。
Apple Watchなどのスマートウォッチを身に着けていればアラートが来るかも知れません。
しかし、無い場合はどうでしょうか。自ら情報を取得する手段はあるでしょうか。
そうなった時にはサイレンなどの「音響」によって情報が伝えられるでしょう。
ですが、波音や風によってその伝達が上手くいかない場合もあり得るかも知れません。
気象庁が発令する津波警報等は地震が起きてから約3分をめどに出されます。
直ちに海岸から離れてもらうためにも、フラッグの役割は大きいと思います。
聴覚障害者の方に伝わります
そして津波フラッグは、視覚で伝えるという性質上、聴覚に障害を持つ方を第一に考えた情報伝達手段です。この背景には、東日本大震災による一つのデータが存在します。
3.11で明らかになった聴覚障害者の死亡率
表 東日本大震災で被害にあった障害者数(岩手県、宮城県、福島県)
(全体(計27市町村)と聴覚障害者のデータを抜粋)
全体 | 聴覚障害者 | ||
死者/人口 | 死亡率 | 死者/人口 | 死亡率 |
12,853/1,244,167 | 1.03% | 75/3,753 | 2.00% |
これは公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会の情報誌「ノーマライゼーション」2011年11月号に掲載されたデータの一部です。
NHK福祉ネットワーク取材班がまとめた東日本大震災における障害者の方の死亡率を示しています。
データから、岩手県、宮城県、福島県の聴覚障害者の方の死亡率が、聴覚障害者でない方の死亡率に比べて2倍になったことが明らかとなりました。
(これは全体のデータであり、地域によっては大きく死亡率が上がっていたりする所もあります)
ではなぜ、そのような結果になってしまったのか?
一つには、情報がしゃ断されてしまったことが挙げられます。
地震の影響で、聴覚障害者の方に手話や文字放送を伝えるテレビなどの機器が停電などで使用不可になったり、壊れてしまい、避難に必要な情報が得られなくなってしまったということです。
この実例が、宮城教育大学の准教授である松崎丈先生の論文で多数示されています。
東日本大震災で被災した聴覚障害者における問題状況―情報アクセスの視点から―
(宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要、8号、15~32ページ、2013年)
被災された聴覚障害者の方によると、発災直後、消防団などの呼びかけや防災行政無線からの放送が全く聞こえなかったという事例があり、津波が来ることを知らなかったというのです。
したがって、津波が来るという情報を複数の手段で伝えることが課題と言えます。
津波警報等は「形象」「色彩」「灯光」または「音響」で伝えられます
では法律では、どのような手段で津波警報等を伝達しなさいと規定しているのでしょうか。
その根拠となるのが「気象業務法」です。この第二十四条には次のように規定されています。
(予報及び警報の標識)
第二十四条 形象、色彩、灯光又は音響による標識によつて気象、地象、津波、高潮、波浪又は洪水についての予報事項又は警報事項を発表し、又は伝達する者は、国土交通省令で定める方法に従つてこれをしなければならない。
出展:e-Gov 気象業務法
この条文で
- 標識 情報を伝えるための記号や目印
- 形象 形や姿
- 色彩 色
- 灯光 灯り
- 音響 音
です。そして、それらを使ってどうやって伝えるのかというと、条文の後段にある通り「国土交通省令で定める方法に従って」やってください、とあるんですね。
次にその省令はどうなっているでしょうか。
これは「気象業務法施行規則」の第十三条で規定されており、以下のようになっています。
(予報及び警報の標識)
第十三条 法第二十四条の国土交通省令で定める方法は、次の表の上欄に掲げる予報又は警報について、同表の下欄に掲げる方法とする。
津波注意報 |
旗を用いるか、又は鐘音若しくはサイレン音による。 |
このように、三つの手段が示されています。そしてこれらは
- 旗 形象、色彩
- 鐘音 音響
- サイレン音 音響
という手段になっています。
そして、この「旗」というのが今回取り組みが始まった津波フラッグということになります。
同施行規則は、津波フラッグの取り組み開始日である令和2年6月24日に改正されました。
つまり、今までは形象と色彩を使った標識による情報伝達手段が規定されていなかったんですね。
こうした経緯があり、視覚的に津波を伝える津波フラッグが作られました。
自治体の取り組み
154市町村が津波フラッグを導入(2022/6/19 追記)
気象庁によると、令和4年(2022年)1月31日時点で154の市町村が津波フラッグを導入しています。
令和3年(2021年)2月26日時点では、導入した市町村数が63でしたので約1年間で2倍以上になりました。また都道府県単位で見ると、新たに津波フラッグを導入あるいは増加した数が32になっています。
上の画像のように、気象庁のサイトでは都道府県単位での導入自治体数のみを示しています。
取り組みが進んでいくことで、より具体的にどの場所で津波フラッグを導入しているのか、そのようなリストも求められるようになってくるでしょう。そして海水浴客などに周知する取り組みも必要になってくると思います。
津波フラッグ以前から独自に運用
また、ここで注意しておきたいことは、今までも独自に津波警報等を視覚的に伝達している自治体がある、ということです。
今回の取り組みを行うための検討段階において、気象庁は海岸がある全国の自治体(都道府県と市区町村、689機関)にアンケートを実施しています。
その結果、566の機関から回答が得られ、すでに82の自治体が視覚により伝える手段を採用していることが分かりました。
たとえば、静岡県下田市では2005年(平成17年)からU旗を用いた津波警報等の伝達を行っています。
(広報しもだ 令和2年7月号8-9ページ「防災かわら版」)
そして神奈川県鎌倉市では、3.11があった2011年(平成23年)にオレンジ色の旗による取り組みが始まりました。
当時海にいたウインドサーファーが防災無線に気付かなかったというのです。
私はマリンスポーツを経験したことがありませんが、波と風の音はそれほど大きいものなのかと驚きました。
鎌倉市のこの取り組みは、沖縄県や宮崎県、福井県などにも広がり、神奈川県としても統一的なものになりました。
(神奈川県 津波対策 7津波のあれこれ)
すでに導入をしている自治体がある中、気象庁は津波フラッグの統一化についてもアンケートを行っています。
統一、つまり国が視覚による伝達手段を定めることで今までの独自運用ができなくなるが、それでも構わないかという質問です。
結果は次の通り、88%が賛成と回答しました。
寄せられた意見の中には、統一されることで情報が伝わりやすいという声がある一方で、新たな手段を浸透させるのに時間がかかる、導入のためのコストが心配だ、という意見もありました。
今後、津波フラッグの取り組みが広がるにつれて議論が深まっていくと思います。
国際信号旗(旗りゅう信号)とは
船同士のコミュニケーション方法です
津波フラッグはそのデザインが国際信号旗のU旗と同じものになっています。
国際信号旗とは、船舶同士が信号を送りあうために使用する世界共通の旗のことを言います。
そして、この信号を送る方法を旗りゅう信号と呼びます。
旗は全部で40枚あり、その内訳は
- アルファベット1文字に対応してA~Zの26枚
- 数字を表すために0~9の10枚
- 代表旗と呼ばれる旗が3枚
- 回答旗と呼ばれる旗が1枚
となります。また、アルファベットの旗1枚で表す1字信号はそれぞれに意味があります。
たとえば、以下のような旗があります。
組み合わせて使うこともあります
旗を組み合わせることで別の意味を持つ信号にもなります。
よく知られている組み合わせに、U旗とW旗を合わせたものがあります。
これは、貴船の安全な航海(ご安航)をお祈りします。という意味になるんです。
そして、この信号を受け取った船は、数字の1旗をプラスしてお返しします。
ご協力ありがとう。貴船のご安航をお祈りします。という意味です。
UWに対してUW1でお礼をする・・・世界中で伝わる素敵なあいさつですね。
旗の組み合わせで別の意味が出てくるために、気象庁の津波フラッグのパンフレットにもその旨が注意書きとして書かれています。あくまでもU旗1枚で運用するということに注意が必要です。
まとめです
今回の防災お役立ち情報は「津波フラッグ」を取り上げました。
津波の発生が予想される時に、主に海水浴場等にいる聴覚障害者の方を第一に考えた取り組みです。
そして情報を視覚的に伝達することで、遊泳者やマリンスポーツをしている人にも津波が迫っていることを伝えることができます。
しかし、そのためにはまず「津波フラッグ」がどのようなもので、どのようなデザインなのかを知らなければなりません。
多くの人の思いが結実した旗のことを、より多くの人に知って欲しいと思います。
津波フラッグが初めて使われました!(2022/6/19 追記)
今年1月に発生したトンガの海底火山、フンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山の噴火によって、日本にも津波注意報(後に津波警報になりました)が発表されたことは記憶に新しいことだと思います。
このことを受け、津波フラッグが初めて使われたとのニュースが出ています。
記事によれば、津波注意報の発表を受けて神奈川県藤沢市の新江ノ島水族館など、3か所の施設で津波フラッグが掲出(けいしゅつ)されました。
これらの施設は藤沢市が掲出の協力を依頼していた場所であり、昨年2021年(令和3年)11月に行われた津波避難訓練でも掲出の訓練が行われていたとのことです。
6月もあと少しで終わり、夏本番の7月がやって来ます。海開きとなる海水浴場も続々出てくることになりますが、もしもの時に備え、津波フラッグのことをぜひ覚えてみてください。